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チェロはなぜ“人の声に近い”と言われるのか|音域と楽器の大きさから見た理由

チェロはなぜ“人の声に近い”と言われるのか|音域と楽器の大きさから見た理由

チェロの音を「人の声に近い」と表現する言い方を、どこかで耳にしたことはありませんか。演奏会のプログラムにも、楽器紹介の文章にも、この一言はよく出てきます。ただ、なぜそう感じるのかまで書かれていることは、あまり多くありません。

感覚的な褒め言葉のように見えますが、私はここに、かなり具体的な下地があると見ています。チェロが受け持つ音の高さの範囲が、人が歌うときの高さの範囲とほとんど重なっているのです。声に似ていると感じるのは、耳が同じ高さの帯を聞き慣れているからです。

チェロの立ち位置:まず1分だけ

チェロは弦楽器4種類のうち、下から2番目の高さを受け持つ楽器です。同じ4本の弦を張り、同じように弓で鳴らしますが、大きさと構え方、そして担う役割がそれぞれ違います。音の高さは実音、つまり実際に鳴る高さで示し、C4を真ん中のドとして読んでください。上限は奏者と曲によって変わるので、あくまでおおよその目安です。

楽器

調弦(開放弦・低い順)

おおよその音域

構え方

オーケストラでの主な役割

ヴァイオリン

G3・D4・A4・E5

G3〜E7付近

肩に載せ、顎ではさむ

いちばん上の声部、旋律

ヴィオラ

C3・G3・D4・A4

C3〜E6付近

肩に載せ、顎ではさむ

内声の芯、和音の中身

チェロ

C2・G2・D3・A3

C2〜C6付近(独奏ではさらに上)

座って両膝ではさみ、エンドピンで床に立てる

低音の支えと、歌う旋律

コントラバス

E1・A1・D2・G2

E1〜G4付近

立つか高い椅子に腰掛け、床に立てる

最低音の土台

表で確かめておきたいのは、チェロの調弦がヴィオラとまったく同じ並びで、ちょうど1オクターブ低いという点です。C・G・D・Aという完全5度ずつの積み方は共通で、違うのは鳴る高さと楽器の大きさだけ。この「1オクターブ下」という位置が、後の話にそのまま効いてきます。

「人の声に近い」の正体は、音域の重なりです

まず先にお断りしておくと、「人の声に近い」は測定して確かめられた事実というより、長く語り継がれてきた評価です。声との近さを数値で示した決定的な指標があるわけではありません。ただ、そう感じる人が多いことには理由があります。

チェロの最低音C2は、男声の低い側とほぼ同じ高さにあります。そこから上へたどると、テノールの高い音域を通り、女声の低い側の帯にまで届きます。つまりチェロ1台で、合唱でいえばバスからアルトあたりまでの高さをほぼ連続して受け持てるわけです。声種ごとの高さの分かれ方は声種とは?ソプラノからバスまで6区分の音域と違いで整理しています。

ヴァイオリンの高い音域は、人が歌える範囲を大きく超えたところまで伸びます。コントラバスは逆に、人が声を出せない低さから始まります。両端の2つは、耳が「歌」として聞き慣れた帯から外へはみ出しているのです。その中で、歌の帯にすっぽり収まっているのがチェロでした。

低音も旋律も、どちらも担える

役割の面でも、チェロは珍しい立ち位置にいます。オーケストラの中では、コントラバスと組んで低音の土台を作る場面が多く、和音の底を支える裏方として働きます。ところが同じ楽器が、独奏や室内楽では堂々と旋律を歌います。低音楽器と旋律楽器の両方を兼ねる役回りは、弦楽器の中でもチェロが最もはっきりしています。

兼ねられる理由も、やはり音域にあります。チェロは最低音から常用の上限までにおよそ4オクターブの幅を持ち、その中に低音の帯と旋律の帯の両方が収まっています。低い側だけを使えば和音の土台になり、高い側の弦へ移れば旋律として前に出られます。だから作曲家は、同じ一つのパートに正反対の仕事を書き分けられるのです。

この二面性は、弦楽四重奏を聴くとよくわかります。4人のうちチェロは基本的に和音の底を受け持ちますが、曲の途中で旋律が降りてきて、上の3人が伴奏へ回る場面がしばしばあります。室内楽とは?“小さいオーケストラ”じゃないで書いたとおり、少人数の編成では一人ひとりの持ち場が入れ替わります。声に近い高さを持つ楽器が旋律側へ回ったとき、聴き手は無意識にそれを歌として受け取ります。

一段深く:胴の大きさが音域を決めています

弦楽器4種類の音域の差は、結局のところ楽器の大きさの差です。弦が長いほど、そして重いほど低い音が出ます。ただし弦だけでは空気をほとんど動かせないので、駒から表板へ振動を伝え、胴全体を鳴らして音にします。このとき、胴の中に閉じ込められた空気と板の大きさが、どの高さの帯をよく響かせるかを決めます。

音響設計を学んだ側から見ると、ここは楽器づくりのいちばん面白い部分です。低い音ほど空気を大きく揺らす必要があり、それには大きな板と大きな箱が要ります。だから低い音域を受け持つ楽器ほど胴が大きくなり、肩に載せられなくなって床に立てる構えへ変わりました。構え方の違いは流儀の問題ではなく、音域を成立させた結果なのです。

弾く側の実感で言えば、チェロが歌って聞こえるのは高さの重なりだけが理由ではありません。胴が大きいぶん音の立ち上がりにわずかな溜めがあり、その膨らみ方が息を使う声の出方と似て感じられます。とはいえ、ここは聞き手の受け取り方に寄る部分です。舞台上でどの楽器がどこに座るのかという設計も響き方を左右しますので、オーケストラの楽器配置はなぜあの並び?もあわせて読んでみてください。

よくある質問

Q. チェロとヴィオラは調弦が同じなのに、なぜ音の印象が違うのですか

A. 鳴る高さが1オクターブ違うことに加えて、胴の大きさが大きく違うためです。胴が大きいほど低い帯域がよく響き、同じ形の旋律を弾いても音色の重心が下がります。調弦の並びが同じでも、聞こえ方は別の楽器になります。

Q. チェロの上限はどこまでですか

A. 一つの数字では決まりません。指板の先へ手を進めるほど高い音が取れますし、弦に軽く触れて倍音だけを鳴らすハーモニクスを使えばさらに上が出ます。表に示したC6付近は、よく書かれる範囲の目安として読んでください。

まとめ

「人の声に近い」という言い回しは、雰囲気だけの褒め言葉ではありませんでした。チェロの受け持つ高さは、人が歌う高さとほぼ重なっています。そのうえで、低音の支えと歌う旋律を一台で兼ねられます。この2つが重なったところに、あの独特の印象が生まれているのでしょう。

次にチェロの音を聴くときは、いま自分がどのあたりの声と同じ高さを聴いているのかを、少し意識してみてください。弦楽器それぞれの人数と役割については、ヴァイオリンはなぜオーケストラで一番多いのかでも扱っています。

この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/一般社団法人LFコンサート 代表理事/テューバ奏者。広島県三次市出身。九州大学で音響設計と音楽マネジメントを学び、デザイン思考を軸に持つ。演奏する側の実感と“音の仕組み”の両面から、「誰もが音楽にたどり着ける道筋」のリデザインに取り組む。

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