クラリネットとオーボエは、どちらも黒光りする木の管を縦に構えて吹く、木管楽器の代表格です。管体には、どちらもアフリカン・ブラックウッド(グラナディラ)が最もよく使われるとされるので、遠目にはそっくりに見えます。
違いの核心は、息を受け止める発音部のリードにあります。クラリネットは1枚、オーボエは2枚。そのうえ管の形が円筒と円錐に分かれていて、同じ木管でも、管の中で起きていることはまるで別物です。
クラリネットとオーボエの違い:まず1分だけ
クラリネットは、1枚のリードをマウスピースに固定し、リガチャーと呼ばれる金具で押さえて吹きます。息を通すと、リードが震えて、音が生まれます。オーボエは、薄い2枚のリードを合わせてダブルリードにし、小さな金属の管(スタプル)に結び付けて使います。どちらのリードも、ケーンと呼ばれる植物の茎から作られます。
ここで比べるのは、標準的なB♭管のクラリネットとオーボエです。A管やイングリッシュホルンなどの仲間は扱いません。木管と呼ばれる理由が材質ではないことは、金管楽器と木管楽器の分類で書きました。
並べて見ると、違いは5つに絞れます
比べる点 | クラリネット(B♭管) | オーボエ |
|---|---|---|
リード | 1枚。マウスピースに固定 | 2枚。合わせて金属管に結ぶ |
管の形 | ほぼ円筒で、先がベル状に開く | 細い円錐 |
音域(実音) | D3〜B♭6 あたり | B♭3〜G6 あたり |
移調 | 移調楽器。記譜より長2度低く鳴る | 移調しない。記譜どおりに鳴る |
音色 | 低音域は豊かで暗く、中音域は明るく甘い | 明るく、よく通る |
音域の数字は目安です。両者を含む木管8種の音域を実音でそろえた一覧は、木管楽器の音域一覧にあります。表のとおりなら、クラリネットは下にも上にも広く、3オクターブ半を超える帯を受け持ちます。オーボエは2オクターブ半を超える程度です。
違いが生まれる理由:管の形が「次の音域への跳び方」を決める
管楽器は、同じ指使いのまま息を強めると、管がつぎの倍音で鳴り、1段高い音域に移ります。この動きをオーバーブローと呼びます。クラリネットとオーボエでは、この「1段上」の幅が違います。オーボエは1オクターブ上、クラリネットは12度、つまり1オクターブと完全5度上に跳びます。
差を生むのは管の形です。クラリネットの円筒管は独特の音色の主な理由だとも説明されますが、跳び方にも効いています。円錐の管は、片側が閉じていても、両端が開いた管のように振る舞うと説明されます。そのためオーボエは、基音の2倍の周波数にあたる第2倍音、つまり1オクターブ上に移れます。
ほぼ円筒のクラリネットは、固定されたリードの条件と合わさって、片側が閉じた円筒管のように振る舞います。その場合は第2倍音が使えず、基音の次は第3倍音になります。周波数が3倍の音は、1オクターブと完全5度上です。レジスターキーを開けると基音が支えられなくなり、この第3倍音が鳴ります。
クラリネットとオーボエが生まれた時代
オーボエの祖先は、軍隊などが戸外で使ったショームです。17世紀半ばにオーボワの名で現れた楽器は、管が3つの部分に分かれ、精密に作れるようになりました。室内音楽向けの改良にはオトテール一族が関わったと説明されます。
クラリネットは、それより遅れて登場します。1700年ごろ、ドイツのニュルンベルクのヨハン・クリストフ・デンナーが、シングルリードの古い楽器シャリュモーにキーを足して改造したのが始まりとされます。デンナーの楽器では、第2音域が基音の12度上から始まりました。前の節で見た跳び方は、この時点ですでに備わっていました。
18世紀後半、2つの楽器は演奏の現場で並びます。クラリネットは1750年代にパリの楽団に入りました。モーツァルトは1791年にクラリネット協奏曲イ長調を書いています。初期の軍楽隊で主旋律を担ったのはオーボエで、のちにクラリネットがその役を継ぎました。
19世紀には、キーの仕組みが大きく変わります。1812年にミュラーが13キーのクラリネットを開発し、1839〜43年ごろにはクローゼとビュッフェが、フルートのベーム式を応用したクラリネットを作りました。オーボエでは、パリのトリエベール家がベーム式フルートを手がかりにキーの仕組みを発展させ、現在のコンセルヴァトワール式につながりました。
見分け方と、オーケストラでの顔つき
遠目に見分けるなら、楽器の上端を見ます。クラリネットは、マウスピースにリガチャーの金具でリードが留められています。オーボエは、細い金属管(スタプル)に2枚のリードが結ばれています。上端を見れば、1枚か2枚かで迷いません。
オーケストラでの顔つきも違います。コンサートの冒頭でチューニングの音を出すのはオーボエで、理由はオーケストラのチューニングはなぜオーボエから始まるのかで詳しく書きました。登場した時代の違いは、前の節で書いたとおりです。
一段深く:クラリネットは、倍音を1、3、5と飛び石で使う
クラリネットの音域は、使う倍音で区切られています。低い側のシャリュモー音域(記譜でE3〜F♯4)は基音で鳴らし、中間のクラリオン音域(B4〜C6)は第3倍音、最も高いアルティッシモ音域(D6〜A6)は第5・7・9倍音で鳴らすとされます。基音E3の12度上は計算するとB4で、クラリオン音域の入口と重なります。第2倍音や第4倍音は使われません。
この飛び石の理由は、理想化した円筒の閉管で計算するとわかります。管の長さをLとすると、閉管の基音の波長は4L、両端が開いた管なら2Lです。同じ長さなら閉管のほうが波長が2倍で、基音は1オクターブ低くなります。そして閉管が鳴らせるのは、基音の1倍、3倍、5倍と、奇数倍の倍音です。実物は音孔やベルの影響で理想からずれますが、倍音の使い方の筋道は同じです。
よくある質問
Q. どちらが低い音まで出ますか
A. 目安の音域では、クラリネットのほうが低く、実音でD3からです。オーボエはB♭3からなので、短6度ほどの差になります。上は、クラリネットがB♭6、オーボエがG6あたりで、短3度ほどクラリネットが高い計算です。
Q. チューニングの音をオーボエが出すのは、音が大きいからですか
A. 大きさよりも、通りやすさと音程の安定が理由だとされます。よく通る音なら、基準として全員に届くからです。詳しい経緯は、上で紹介した記事にまとめています。
まとめ
クラリネットとオーボエは、リードが1枚か2枚か、管が円筒か円錐かで分かれます。その違いは、オーバーブローで跳ぶ幅が12度かオクターブかという、音響のふるまいにまで続いています。次に聴くときは、クラリネットの暗く豊かな低音と、オーボエの通る明るさの対比に、耳を向けてみてください。
この記事を書いた人
小林悠真(こばやし・ゆうま)/一般社団法人LFコンサート 代表理事/テューバ奏者。広島県三次市出身。九州大学で音響設計と音楽マネジメントを学び、デザイン思考を軸に持つ。演奏する側の実感と“音の仕組み”の両面から、「誰もが音楽にたどり着ける道筋」のリデザインに取り組む。
