木管楽器の音域を調べようとすると、楽器ごとのページを何枚も開くことになります。しかも片方には実音、片方には楽譜上の音が書かれていて、並べた瞬間に話が食い違います。ピッコロとコントラファゴットでは何オクターブ違うのか、結局よく分からないまま閉じた経験はありませんか。
そこで、オーケストラの木管セクションを一枚の表にまとめました。混乱の正体は、木管には実際に鳴る音と楽譜に書かれる音がずれる楽器が混ざっていることです。そこさえ分けてしまえば、全体の地図は一気に見通しがよくなります。
木管セクション:まず1分だけ
オーケストラの木管セクションは、高い方からフルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットという4つの系統で組まれます。ここにピッコロ、イングリッシュホルン、バスクラリネット、コントラファゴットといった持ち替えの楽器が加わり、上下に音域が広がります。全体をつなげると、コントラファゴットの最低音からピッコロの最高音まで、およそ7オクターブを超える帯になります。10人以上が同じ譜面を弾く弦楽器と違い、木管は1つの楽器につき数人という薄い層で、この広い帯を分担しています。
以下の表では、実際に鳴る音(実音)を基準にそろえました。音名は中央のドを C4 と書く方式で示します。
木管楽器の音域一覧
楽器 | おおよその音域(実音) | 移調楽器か | オーケストラでの人数の目安 |
|---|---|---|---|
ピッコロ | D5 〜 C8 あたり | 記譜より1オクターブ高く鳴る | フルート奏者の持ち替え、または1人 |
フルート | C4 〜 C7 あたり | 移調しない(実音で記譜) | 2〜3人 |
オーボエ | B♭3 〜 G6 あたり | 移調しない(実音で記譜) | 2〜3人 |
イングリッシュホルン | E3 〜 A5 あたり | F管。記譜より完全5度低く鳴る | オーボエ奏者の持ち替え、または1人 |
クラリネット | D3 〜 B♭6 あたり(B♭管) | B♭管は長2度低く、A管は短3度低く鳴る | 2〜3人 |
バスクラリネット | B♭1 〜 C5 あたり | 記譜より1オクターブと長2度低く鳴る | クラリネット奏者の持ち替え、または1人 |
ファゴット | B♭1 〜 E5 あたり | 移調しない(実音で記譜) | 2〜3人 |
コントラファゴット | B♭0 〜 B♭3 あたり | 記譜より1オクターブ低く鳴る | ファゴット奏者の持ち替え、または1人 |
数字に「あたり」と付けているのは、ごまかしではありません。木管の音域は、下限こそ楽器の構造で決まりますが、上限は奏者の技術と楽器の個体差、そして曲が要求する場面によって動きます。表の上限を超える音を書いた作品もありますし、逆に安全に鳴らせる範囲はもう少し狭いという見方もできます。音域表は、境界線ではなく目安として読んでください。
移調楽器という言葉に引っかからないために
移調楽器とは、楽譜に書かれた音と実際に鳴る音が一定の間隔でずれる楽器のことです。クラリネットの譜面でドと書いてあれば、B♭管なら実音は長2度下のシの♭が鳴ります。イングリッシュホルンなら完全5度下です。奏者の側は書いてある通りの指使いをするだけで、ずれは楽器が引き受けています。
ここで押さえておくと便利な線引きがあります。フルート、オーボエ、ファゴットはいわゆるC管で、書かれた音がそのまま鳴ります。クラリネットとイングリッシュホルンは移調楽器です。そしてピッコロとコントラファゴットは、移調はしないものの1オクターブずれて鳴ります。この3グループに分けておくと、スコアを開いたときに迷いにくくなります。
なぜオクターブでずらすのかといえば、加線だらけの譜面を避けるためです。ピッコロの実音をそのまま書けば五線の上に線が積み上がり、コントラファゴットなら下に積み上がります。読みやすさのための工夫だと考えてください。
一段深く:木管の音色は、発音のしかたで3つに割れています
ここからが、音域表だけでは見えない部分です。木管楽器という呼び方はひとくくりですが、音を出す仕組みは3種類に分かれています。材質で分けているわけではないという話は金管楽器と木管楽器の分類で書きましたが、木管の内部にも別の線が引かれているのです。
1つ目はエアリードです。フルートとピッコロは、歌口のふちに息を当て、そこで空気の流れが揺れることで音になります。振動しているのは息そのものですから、音の立ち上がりはやわらかく、輪郭に丸みが出ます。
2つ目はシングルリードです。クラリネットとバスクラリネットは、1枚の薄い板をマウスピースに固定し、それが開閉して空気を細かく区切ります。3つ目がダブルリードで、オーボエ、イングリッシュホルン、ファゴット、コントラファゴットは2枚のリードを向かい合わせにし、その隙間を振動させます。狭い隙間を無理やり通すぶん、倍音が豊かに出て、あの張りのある通る音になります。
音響を学んだ側から言えば、音色の違いの正体はここにあります。管の長さは音の高さを決めますが、音色を決めているのは発音部と管の形です。オーボエとクラリネットが同じ高さの音を出しても別の楽器に聞こえるのは、リードの枚数と管の広がり方が違うからです。
吹く側の実感も添えておきます。ダブルリードの奏者は、本番前に自分でリードを削って調整します。同じ楽器でもリード1枚でその日の音が変わるからで、これは金管楽器のマウスピース選びよりも、はるかに繊細で日常的な作業です。木管の音色は、工場ではなく奏者の手元で最後の調整を受けています。
客席で聴き分けるコツ
音域表を頭に入れたうえで演奏会へ行くと、聴き方が変わります。高い方で細く輝く線が走ったらピッコロ、その少し下で丸く歌えばフルートです。鼻にかかったような張りのある旋律はオーボエ、同じ系統でもう少し暗く沈んだ色ならイングリッシュホルンだと考えてよいでしょう。
低い側は、輪郭で聴き分けられます。ファゴットは音の芯がはっきりしていて、旋律を歌うこともできます。コントラファゴットが入ると、音というより床が震えるような重さが加わります。オーケストラの楽器配置では木管が舞台中央の奥にまとまっていますから、視線の置きどころも決めやすいはずです。
よくある質問
Q. サクソフォンは木管楽器ですか
A. 分類上は木管楽器に入ります。本体は金属ですが、シングルリードで発音する仕組みがクラリネットと同じだからです。オーケストラでは常設ではなく、必要とする作品のときに加わる扱いになります。
Q. 表の上限より高い音が出ている曲を聴いた気がします
A. あり得ます。特にフルートやクラリネットの高音域は、奏者の技術と楽器の状態によって表の目安を超えて出せます。作曲家がその前提で書いた作品もありますので、表はあくまで一般的に安定して使える範囲だと受け取ってください。
まとめ
木管楽器の音域は、実音でそろえて並べれば一枚の帯として見渡せます。フルート、オーボエ、ファゴットは書かれたまま鳴り、クラリネットとイングリッシュホルンは移調し、ピッコロとコントラファゴットはオクターブずれます。この3グループだけ覚えておけば、スコアを開いても迷いません。そして音色の違いの正体は音域ではなく、エアリード、シングルリード、ダブルリードという発音のしかたの差にあります。次の演奏会では、高さではなく音の出だしのやわらかさに耳を向けてみてください。
この記事を書いた人
小林悠真(こばやし・ゆうま)/一般社団法人LFコンサート 代表理事/テューバ奏者。広島県三次市出身。九州大学で音響設計と音楽マネジメントを学び、デザイン思考を軸に持つ。演奏する側の実感と“音の仕組み”の両面から、「誰もが音楽にたどり着ける道筋」のリデザインに取り組む。
