フルートとリコーダーは、どちらもリードを使わない笛です。息の流れを鋭い縁(エッジ)に当て、そこで生まれる空気の揺れで管の中の空気を鳴らす、という発音の原理は同じです。
それでも、オーケストラにはフルートの席があり、リコーダーの席はありません。違いの核心は、エッジに向かう息の流れを奏者の唇が作るか、楽器の中の細い通り道が作るか、という一点にあります。
フルートとリコーダーの違い:まず1分だけ
フルートは横に構え、歌口と呼ばれる穴の縁に向けて、唇のすき間から息を吹きつけます。リコーダーは縦に構え、吹き口から入った息が、楽器の中のウインドウェイ(息の通り道)を通ってエッジに当たります。
リコーダーは、くわえて息を入れるだけで音が出ます。フルートは、唇の形と楽器の角度で息の向きを整えることが、音を出す最初の課題になります。最初の1音の出しやすさが違うのは、この仕組みの差です。
並べて見ると、同じなのは発音の原理です
比べる点 | フルート | リコーダー |
|---|---|---|
構え方 | 横に構える | 縦に構える |
息の流れを作るもの | 奏者の唇 | 楽器の中のウインドウェイ |
音域(代表的な楽器) | C4〜C7(コンサート・フルート) | C5〜D7(ソプラノ・リコーダー) |
記譜 | 書いた音のとおりに鳴る | ソプラノは書いた音の1オクターブ上で鳴る |
主な活躍の場 | オーケストラ、吹奏楽 | バロック音楽、教育、アンサンブル |
どちらも金属や木、樹脂など材質はさまざまですが、分類はどちらも木管楽器です。分類の基準が材質ではなく発音の仕方にあることは、金管楽器と木管楽器の分け方を書いた記事で扱っています。フルートの音域をほかの木管と並べた表は、木管楽器の音域一覧にあります。
違いが生まれる理由:息の流れを作るのは誰か
オーストラリアのニューサウスウェールズ大学(UNSW)の音響の解説は、フルートでは奏者の唇から出た空気の流れが歌口の開口部を横切る、と説明します。同じ解説は、リコーダーでは息の通り道の形が空気の流れを作り、その役目を唇に任せない、と書いています。
この差は、音量と音程の関係に表れます。リコーダーでは、息の速さが上がるほど音程が上がる傾向があり、日本語版ウィキペディアは「音の強弱がそのまま音高に影響し、補正に高度の技能が必要」と書いています。一方のフルートでは、息の向きと強さが音程・音色・音量のすべてに関わり、奏者は唇の形や楽器の位置で音程を直す、と説明されています。
ちなみに、エッジで何が起きているのかの説明は一つではありません。日本語版ウィキペディアのフルートの項は、エッジに当たった息の流れが渦を作って振動の源になるという説と、管の中の圧力の上がり下がりが源になるという説の2つを並べています。どちらの説でも、最後に鳴るのは管の中の空気です。
つまりフルートは、強さと高さを唇で別々に調整できる余地を持った楽器です。大きな編成の中で、音量を変えながら音程を保つ役目を負うには、この余地が欠かせません。
二つの笛が入れ替わった時代:18世紀の主役交代
バロック期までは、「フルート」と言えば縦笛のリコーダーを指し、横笛は「フラウト・トラヴェルソ」と呼ばれて区別されていました。
年 | 場所 | できごと |
|---|---|---|
17世紀後半 | フランス | オトテール一族が改良した横笛が宮廷で人気を得る |
1721年 | ドイツ | バッハがブランデンブルク協奏曲を献呈。第2番と第4番にリコーダーが入る |
1720年代 | ヨーロッパ | 横笛がリコーダーの人気を追い越す |
1847年 | ドイツ | ベームが金属製の管を持つ新しいフルートで特許を取る |
20世紀初頭 | イギリス | ドルメッチがリコーダーを復元し、古楽の復興とともに再評価が進む |
演奏の現場では、楽器名の読み方に注意が要ります。ブランデンブルク協奏曲第2番の自筆譜の題には「Flauto」とだけ書かれていますが、この独奏楽器はリコーダーと解されています。第4番の独奏の2本も、自筆譜では「フィアウティ・デコー」と書かれ、リコーダーとされます。
リコーダーは古典派とロマン派の時代にはほとんど使われなくなりました。オーケストラの編成が固まっていく時期に、リコーダーの席は作られなかったことになります。横笛のほうは、ベームの改良を経て今の形になりました。
どんな場面で吹かれるのか
フルートは、オーケストラと吹奏楽の木管セクションの一員です。リコーダーは、バロック音楽の演奏や、アマチュアのアンサンブル、そして教育の場で生きています。日本では小学校の音楽で学ぶ楽器として身近で、ソプラノ・リコーダーは子どもの最初の楽器として広く使われています。
弓で弾く楽器にも、似た主役交代がありました。脚で支える古い弦楽器がチェロに場を譲った経緯は、ヴィオラ・ダ・ガンバとチェロを比べた記事で書いています。
一段深く:エッジまでの距離を、誰が決めるのか
音響設計の目で見ると、二つの笛の差は“息の流れの長さと向きを、演奏中に変えられるかどうか”に尽きます。UNSWの解説によれば、フルート奏者は高い音へ移るとき、吹く圧力を上げて息を速くし、あわせて唇を前に出します。息の速さと、唇からエッジまでの距離の両方を、奏者が演奏しながら動かしているわけです。
同じ解説は、強く吹くか、唇のすき間を狭めるかのどちらかで息を速くすれば、別の音が出せるとも書いています。フルート奏者は指を変えずに音域を移るとき、この二つを使い分けていることになります。
リコーダーでは、その距離と向きは楽器を作った時点で決まっています。だから息を入れるだけで安定して鳴る一方、強く吹けば音程が上がり、その補正はフルートより難しいとされます。初めての人にやさしい作りと、大編成で音量を操る自由とは、同じ部品の表と裏です。
よくある質問
Q. フルートとリコーダーは、どちらが難しいのですか
A. 音を出すところまでは、リコーダーのほうがやさしい楽器です。ただし、音量を変えながら音程を保つのはリコーダーのほうが難しいとされ、どちらが易しいとは一概に言えません。
Q. オーケストラでリコーダーを聴く機会はありますか
A. バロック時代の曲を演奏する場面で出会えます。古典派以降のオーケストラや吹奏楽で使われることは、ほとんどありません。
まとめ
フルートとリコーダーは、息を縁に当てて鳴らす同じ原理の笛です。違うのは息の流れを作るものが唇か楽器の通り道かで、その差が音の出しやすさと、音量を変えても音程を保てるかどうかを分けました。次にバロックの曲を聴くときは、プログラムの楽器名が「フルート」か「リコーダー」かを確かめてみてください。
この記事を書いた人
小林悠真(こばやし・ゆうま)/一般社団法人LFコンサート 代表理事/テューバ奏者。広島県三次市出身。九州大学で音響設計と音楽マネジメントを学び、デザイン思考を軸に持つ。演奏する側の実感と“音の仕組み”の両面から、「誰もが音楽にたどり着ける道筋」のリデザインに取り組む。
