ハープの前に座った奏者は、手だけでなく足も忙しく動かしています。足元には7本のペダルが並んでいて、曲の途中で何度も踏み替えられます。ピアノの黒鍵にあたるものはハープに見当たらないのに、半音の入った曲が弾けるのは不思議ではないでしょうか。
答えを先に言うと、ペダルは弦の振動する長さを変えています。コンサートハープに張られているのは多くが47本の弦で、1オクターブあたり7本、ドレミファソラシの7音ぶんだけです。半音のための弦は1本もなく、足で踏むと弦を挟む円盤が回って弦を短くし、その音名の弦を、ほぼ全オクターブで一斉に半音上げます。
ハープのペダル:まず1分だけ
ペダルは全部で7本あり、左側に D・C・B の3本、右側に E・F・G・A の4本が並びます。1本が受け持つのは1つの音名で、たとえば C のペダルは、ほぼどのオクターブの C の弦にも同じように効きます。ただし、いちばん低い C と D、いちばん高い G の3本にはペダルの円盤がなく、演奏前に手で調弦します。各ペダルには3段の位置があり、上から順にフラット、ナチュラル、シャープに対応します。
ペダル | 位置 | 上段(フラット) | 中段(ナチュラル) | 下段(シャープ) |
|---|---|---|---|---|
D | 左 | D♭ | D | D♯ |
C | 左 | C♭ | C | C♯ |
B | 左 | B♭ | B | B♯ |
E | 右 | E♭ | E | E♯ |
F | 右 | F♭ | F | F♯ |
G | 右 | G♭ | G | G♯ |
A | 右 | A♭ | A | A♯ |
すべてのペダルが上段にあるとき、弦は何も触れられず、7音すべてがフラットの状態で鳴ります。この並びは変ハ長調の音階で、ピアノでいえばロ長調と同じ高さの音階です。ここからペダルを1段ずつ踏み下げるたびに、その音名の弦が半音ずつ上がっていきます。
半音の弦が無いのに、半音が出る理由
ピアノは1オクターブに12個の鍵を持ち、半音ごとに専用の弦があります。ハープは7音ぶんしか弦を張らず、残りの5つの半音は、弦を短くする機構で後から作ります。弦の本数を減らして、足元の機構に仕事を移した楽器だと言えます。
この方式には、はっきりした約束事があります。ペダルは1つの音名の弦をほぼ全オクターブでまとめて動かすので、低い C と高い C に別々の変化記号を同時に持たせることはできません。弦の数が少ない代わりに、同時に選べる音の組み合わせに制限が生まれています。
弦には色の目印も付いています。C の弦は赤、F の弦は黒または青で、そのほかの弦は白です。弦がずらりと並ぶなかでも、赤と黒(または青)の位置を頼りにすれば、どのオクターブのドとファなのかが見分けられます。
一段深く:ペダルは“足で押さえる指板”
音響設計の目で見ると、ペダルのしていることは、ヴァイオリンの指で弦を押さえる動作とそっくりです。弦の太さと張力が同じなら、振動する部分が短いほど音は高くなり、音の高さは弦の長さに反比例します。半音上げるには長さを約0.944倍に、全音上げるには約0.891倍にする計算です。
ペダルの位置 | 半音の関係 | 振動する長さ(上段を1としたとき) |
|---|---|---|
上段(フラット) | 基準 | 1.000 |
中段(ナチュラル) | 半音上 | 約0.944 |
下段(シャープ) | 全音上(上段から) | 約0.891 |
この表は、張力と太さが変わらない理想的な弦として計算した値です。実物のハープでは、弦ごとに円盤が2枚付いています。中段では1枚目、下段では2枚目の円盤が回り、2本のピンで弦を挟んで、その点を弦の新しい端にします。挟まれた点より手前の部分は、音を出すことに関わらなくなります。
弦の長さと音の高さの関係は、弦楽器の音域一覧で、長さ・重さ・張力の3つとして整理しています。楽器の大きさと音域の関係は、チェロの音域を扱った記事でも見られます。ハープはその長さの操作を、指ではなく足と円盤に任せた楽器です。
この仕組みを、19世紀の初めにセバスチャン・エラールが特許を取って実用にしたのが、現在の「ダブルアクション」のハープです。1本のペダルを2段階に踏み込めて、弦ごとに2枚の円盤が働く仕組みです。ペダルの本数は7本のままで、1つの音名につきフラット・ナチュラル・シャープの3つの状態が選べます。
よくある質問
Q. ハープは何オクターブの音が出ますか
A. 多くは47本の弦で、約6オクターブ半です。最も低い弦はC♭1にあたり、チェロの最低音C2よりも1オクターブ以上低いところから始まります。この最低音域のC・Dと最高音のGにはペダルが届かず、それ以外の弦では、ペダルを踏むと半音ずつ高い音も出せます。
Q. 「ピアノのペダル」とは何が違いますか
A. ピアノのペダルは音を伸ばしたり音色を変えたりする装置で、音の高さは変えません。ハープのペダルは音の高さそのものを変える装置です。同じ「足で踏むペダル」でも、仕事はまったく別物で、ピアノ側は3本のペダルが何をしているのかで整理しています。
まとめ
ハープの足元の7本のペダルは、弦の振動する長さを変えて、音名ごとにフラット・ナチュラル・シャープを切り替える装置です。弦は7音ぶんを積み上げた並びで、半音の弦は存在しません。次にハープの演奏を見るときは、手元だけでなく足元の動きにも目を向けてみてください。音が変わる瞬間に、弦の長さが変わっているはずです。
この記事を書いた人
小林悠真(こばやし・ゆうま)/一般社団法人LFコンサート 代表理事/テューバ奏者。広島県三次市出身。九州大学で音響設計と音楽マネジメントを学び、デザイン思考を軸に持つ。演奏する側の実感と“音の仕組み”の両面から、「誰もが音楽にたどり着ける道筋」のリデザインに取り組む。
