一般社団法人LFコンサート
コラム一覧
コラム楽器のひみつ

ヴァイオリンはなぜオーケストラで一番多いのか|役割と第1・第2の違い

ヴァイオリンはなぜオーケストラで一番多いのか|役割と第1・第2の違い

オーケストラの写真やステージ図を見て、ヴァイオリンの弾き手だけがやけにたくさん並んでいることに気づいたことはありませんか。指揮者から見て左手前に、弓を持った奏者がずらりと並び、数えてみると20人、30人。その一方でコントラバスは舞台の奥に、ぽつり、ぽつりと数人だけ。「なぜこの楽器だけこんなに優遇されているんだろう」と、ふと思ったことがある方も多いはずです。

テューバ奏者として舞台の一番奥、低音の椅子から長くこの編成を眺めてきた私からすると、あの人数の偏りは偶然でも、伝統への遠慮でもありません。じつは、とても理にかなった“音量の設計”なのです。

ヴァイオリンが一番多い理由:まず1分で

オーケストラの弦楽器は、多くの場合、第1ヴァイオリン・第2ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロ・コントラバスの順に人数が減っていきます。同じ弦楽器でも、音域が低くなるほど楽器の胴が大きくなり、1台あたりの音の出方も豊かになる傾向があります。逆に、高い音域を担うヴァイオリンは1台あたりの音量が控えめなぶん、人数を増やして束ねる必要があります。ヴァイオリンが一番多いのは、主役だから偉い、という理由ではありません。

第1・第2・ヴィオラ・チェロ・コントラバス、5つの役割

まず誤解しやすいのが、第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンの関係です。「第2は第1より下手な人が弾く」と思われがちですが、これは役割の違いであって、技量の上下ではありません。主旋律を歌うのが第1、その旋律を和声やリズムで支えるのが第2。オーケストラでは、指折りの奏者が第2の首席を務めることも珍しくないとされます。

5つの弦楽器の役割をまとめると、次のようになります。

楽器

人数の目安

音域

主な役割

第1ヴァイオリン

14〜16人前後

弦楽器の中で最も高い

主旋律を歌う。曲の“顔”になることが多い

第2ヴァイオリン

12〜14人前後

第1とほぼ同じ高音域

対旋律・和声・リズムで主旋律を支える

ヴィオラ

10〜12人前後

中音域

和声の内声を埋め、響きに厚みを与える

チェロ

8〜10人前後

テノール〜バス

旋律も和声の土台も担う“二刀流”

コントラバス

6〜8人前後

最も低い

和声の根音を支え、全体の重心を作る

曲の編成や指揮者の判断で人数は前後しますが、この「上の声部ほど人数が多い」という関係はかなり安定しています。

ステージの並び方にも役割が表れます。第1ヴァイオリンは指揮者から見て左手前、客席にいちばん近い位置に並ぶのが一般的です。第2ヴァイオリンは、その隣に並ぶ配置もあれば、指揮者を挟んで反対側の客席寄りに置く「対向配置」と呼ばれる並べ方もあります。楽器の配置次第で、第1と第2の掛け合いが左右に分かれて聞こえたり、ひとつにまとまって聞こえたりと、響き方まで変わってきます。

第1ヴァイオリンの中でもひときわ目立つ存在が、首席奏者=コンサートマスターです。曲によっては数小節だけ独奏を任されることもありますが、これは協奏曲のように独立した対話をする役ではなく、あくまでオーケストラという集団の中の“声”のひとつです。

音響設計の視点から見る、弦の人数と管楽器のバランス

ここからが、テューバ奏者としての私の実感です。舞台の一番奥で低音を吹いていると、金管・木管セクションの音の圧を体で感じます。トランペットやトロンボーン、そしてテューバは、1人でもかなりの音量を出せる楽器です。少人数でも十分な音圧が確保できます。ところが弦楽器は違います。弓で弦をこすって出す音は、息を吹き込んで鳴らす金管の音に比べると、1台あたりの出力はずっと控えめです。フォルティッシモで金管が全開になったとき、ヴァイオリンが数人しかいなければ、あっという間に音の輪郭が埋もれてしまいます。

だからオーケストラは、音量の小さい楽器を人数で束ねるという設計をしています。とくに一番音量が小さく、一番目立つ役割を担う第1ヴァイオリンには、いちばん多くの人数を割り当てます。これは伝統の踏襲というより、音のバランスを取るための設計判断だと私は見ています。九州大学で音響設計を学んでいたころ、音は単純な足し算では増えないと知りました。同じ楽器を2倍にしても、聞こえる音量は2倍にはなりません。だからこそ、金管とバランスさせるには、直感より多くの人数が必要になるのです。ヴァイオリンの人数は、オーケストラ全体の音量設計図の、いちばん目に見える結果と言えます。

よくある質問

Q. 第2ヴァイオリンは、技術で劣る人が担当するのですか?

A. いいえ、それは誤解です。第1と第2は上手・下手の差ではなく、担当する声部の違いです。主旋律を歌う第1に対し、第2は和声やリズムを支える声部を弾きます。技量そのものに優劣はありません。

Q. 弦楽四重奏のような少人数の編成でも、第1・第2の役割は同じですか?

A. 基本的な考え方は同じです。室内楽のような少人数編成でも、第1ヴァイオリンが主旋律、第2ヴァイオリンが和声を支える役割分担は保たれます。ただし人数が少ない分、ひとりひとりの音がそのまま聞こえるので、より繊細な音量バランスの感覚が求められます。

まとめ

ヴァイオリンがオーケストラで一番多いのは、目立ちたがりだからでも、伝統だからでもありません。音量の小さい楽器を人数で束ねて、金管や木管とバランスを取るための設計です。次にオーケストラの写真やステージを見るときは、ヴァイオリンの人数だけでなく、並び方や他の弦楽器との比を眺めてみてください。人数と配置の両方に、音のバランスを取るための工夫が詰まっていることに気づくはずです。

この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/一般社団法人LFコンサート 代表理事/テューバ奏者。広島県三次市出身。九州大学で音響設計と音楽マネジメントを学び、デザイン思考を軸に持つ。演奏する側の実感と“音の仕組み”の両面から、「誰もが音楽にたどり着ける道筋」のリデザインに取り組む。

公演・鑑賞教室のご相談、活動へのご賛同を

演奏会の企画や学校・施設向け鑑賞教室のご相談、活動へのご賛同まで、お気軽にお問い合わせください。

お問い合わせ
コラム一覧に戻る