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室内楽とは?“小さいオーケストラ”じゃない|弦楽四重奏の魅力

室内楽とは?“小さいオーケストラ”じゃない|弦楽四重奏の魅力

「室内楽」と聞くと、“人数の少ないオーケストラ”というイメージを持っていませんか。名前の響きからして、いつもの交響曲をこぢんまり演奏したもの、と思われても無理はありません。私自身、演奏を始めたばかりの頃はそう捉えていました。

でも、オーケストラでテューバを吹いてきた立場から言うと、これは規模を縮めた話ではありません。室内楽、なかでも弦楽四重奏は、オーケストラとはまったく別の設計で音楽を鳴らす仕組みです。

室内楽とは? ― まず1分だけ

室内楽とは、1パートを1人が受け持つ少人数の器楽合奏です。もともと貴族の広間や個人の“室内”で演奏されたことに由来し、大ホール向けの交響曲や協奏曲とは別の系譜として育ってきました。編成はピアノとヴァイオリン・チェロによるピアノ三重奏、木管五重奏など様々ですが、もっとも代表的なのが弦楽四重奏です。第1ヴァイオリン・第2ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロの4人編成で、この形を確立したのがハイドン。“弦楽四重奏の父”と呼ばれています。ここまでが、辞書的な説明です。

室内楽は“小さいオーケストラ”じゃない

オーケストラの弦楽器は、同じパートを何人もの奏者が束になって弾きます。第1ヴァイオリンなら十数人が同じ譜面・同じ弓使いで弾き、個々の音程のわずかなズレや音色のクセは、束になることでならされて溶けていきます。指揮者は、そのいくつもの束を同時に統率する立場です。

弦楽四重奏には、この束がありません。4人それぞれが、自分のパートで唯一の演奏者です。音程が甘ければそのまま聞こえ、音色に個性があればそのまま届く。誰かの後ろに隠れる場所がないのです。私はオーケストラでテューバを吹いていますが、実は多くの曲でテューバのパートも1人しかいません。弦楽四重奏の4人が常に感じている“隠れ場所のなさ”を、私はオーケストラの中でテューバという1つの椅子から、部分的に味わっています。

もうひとつの違いが、指揮者がいないことです。第1ヴァイオリンが合図を出すことは多いのですが、それは“指揮者役”ではありません。テンポや強弱、フレーズの終わり方は、リハーサルで4人が言葉を交わしながら決めていきます。「ここはあなたが少し先に出て」「この和音は、着地する前に少し間を置こう」——本番では、それを目配せと呼吸だけで再現します。中央司令塔を置かず、4人の対話だけで音楽を運びます。これが弦楽四重奏の核です。

指揮者がいないのは、手を抜いているからではない

私はこの違いを、“人数が少ないから簡略化された”のではなく、目的から設計しなおされた別の仕組みとして見ています。オーケストラの設計目的は、大ホールを満たす音量と、多彩な音色を積み重ねる音楽を成立させることです。だから同じパートを重ね、個人差を束の中に溶かし、指揮者という統率の仕組みを置きます。一方、弦楽四重奏の設計目的は、4人の判断がそのまま聞こえる透明さです。だから重ねず、統率者も置きません。どちらが優れているという話ではなく、鳴らしたい音楽に合わせて、必要な仕組みを選び直しているのです。

この設計思想は、作曲家自身の書き方にも表れます。ベートーヴェンは生涯に16曲の弦楽四重奏曲を書きましたが、なかでも作品127以降の後期作品群は、4つの声部だけで人間の感情の奥行きを描く、彼の到達点とされています。オーケストラという大きな道具立てがなくても、4人の対話だけでどこまで深く語れるか。弦楽四重奏は、作曲家の力量がもっとも素のまま試される場でもあるのです。

よくある質問

Q. 室内楽は弦楽四重奏だけなの?

A. いいえ。室内楽は「1パート1人の少人数編成」全体を指す言葉で、弦楽四重奏はそのひとつの形です。ピアノ・ヴァイオリン・チェロによるピアノ三重奏、弦楽四重奏にピアノを加えたピアノ五重奏、フルート・オーボエ・クラリネット・ホルン・ファゴットの木管五重奏など、組み合わせは多様です。金管でもトランペット2本・ホルン・トロンボーン・テューバによる金管五重奏があり、私自身が演奏することもある編成です。

Q. 初めて聴くなら、どの曲がいい?

A. ハイドンの弦楽四重奏曲「皇帝」(作品76-3)や、ドヴォルザークの弦楽四重奏曲第12番「アメリカ」は、旋律が親しみやすく、4人の対話が聞き取りやすいのでおすすめです。オーケストラの重厚さとは違う、4つの声が近くで語りかけてくる感覚を味わってみてください。

まとめ

室内楽は、オーケストラを小さくしたものではありません。1パートを1人が受け持ち、指揮者を置かず、4人の対話だけで音楽を運ぶ、まったく別の設計です。難しい理屈を全部覚える必要はありません。まずは、指揮者のいない舞台で、4人がどんな呼吸で最初の一音を揃えるのか、そこに耳を澄ませてみてください。最新の演奏会情報はLF CLASSICの演奏会情報でも探せます。ほかの記事はブログ一覧からどうぞ。

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この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/一般社団法人LFコンサート 代表理事/テューバ奏者。広島県三次市出身。九州大学で音響設計と音楽マネジメントを学び、デザイン思考を軸に持つ。演奏する側の実感と“音の仕組み”の両面から、「誰もが音楽にたどり着ける道筋」のリデザインに取り組む。

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