ホルンとトランペットは、どちらも唇を震わせて鳴らす金管楽器で、オーケストラでも吹奏楽でも、金管のセクションに並ぶ仲間です。音域も、実際に鳴る高さで比べるとかなりの部分が重なります。
それでも、管の長さはまるで違います。違いの核心は、ホルンが長い管の“高い倍音”で旋律を吹き、トランペットが短い管の“低い倍音”で吹いているという、倍音の使い方にあります。
ホルンとトランペットの違い:まず1分だけ
ホルンは、丸く巻いた長い管と後ろ向きのベルを持ち、奏者は右手をベルの中に入れて構えます。いまのオーケストラで主に使われるのは、F管とB♭管を切り替えられるダブルホルンで、バルブは左手で操作する回転式です。
トランペットは、短い管を、多くは3本のピストンバルブで切り替えて音を変えます。もっとも一般的なのはB♭管です。同じ高さの音を出していても、2つの楽器は管のまったく別の場所を使っています。
並べて見ると、管の長さが2倍以上違います
比べる点 | ホルン | トランペット |
|---|---|---|
管の長さ | F管で約3.7m(B♭側は約2.7m) | B♭管で約1.4〜1.5m |
主に使う倍音 | 倍音列の高い帯域 | 倍音列の低い帯域 |
記譜と実音 | F管は書いた音より完全5度低く鳴る | B♭管は書いた音より長2度低く鳴る |
マウスピース | 漏斗型 | 浅い椀型(カップ) |
五重奏での席 | 木管五重奏と金管五重奏の両方 | 金管五重奏 |
F管のホルンは、B♭管のトランペットの2倍以上の長さの管を持っています。それでも音域が大きく重なるのは、長い管の高い倍音と、短い管の低い倍音とで、同じ高さに届いているからです。2つの楽器の実用音域を同じ物差しで並べた表は、金管楽器の音域一覧にあります。ホルンのベルが後ろを向き、右手をそこに入れる理由は、ホルンのベルの向きを書いた記事で扱っています。
違いが生まれる理由:管が長いと、基音が低くなる
金管楽器が出せる音は、その管の長さで決まる倍音列の上に並びます。管が長いほど一番下の音(基音)は低くなり、その上の倍音も低い位置から並び始めます。
英語版ウィキペディアの「金管楽器の音の高さ」の項は、トランペットの音域を倍音列の低い側に置き、ホルンの音楽は倍音列の高い側をより多く使う、と書いています。日本語版のホルンの項も、ほかの金管より高い次数の倍音を使うと説明します。
高い倍音を使えば、バルブを押さなくても出せる音が増えます。その代わり、倍音どうしの間隔が狭い帯域で吹くことになり、隣の音に移りやすくなります。ホルンがなぜ音を外しやすいと言われるのかは、倍音列から見た記事で詳しく書きました。
二つの楽器が変わっていった時代:バルブの前と後
バルブが無かった頃、ホルンもトランペットも、ひとつの倍音列の音しか出せませんでした。そこから音を増やす工夫は、二つの楽器で別々の道をたどります。
年 | 場所 | できごと |
|---|---|---|
18世紀中ごろ | ヨーロッパ | ホルン奏者が右手をベルに入れ、手の位置で音程を変える奏法が広まる |
1800年 | ウィーン | ハイドンがキー付きトランペットのために書いた協奏曲(1796年作曲)が初演される |
1818年 | ドイツ | シュテルツェルとブリューメルが、回転式バルブのホルンで特許を取る |
1830年代末 | パリ | ペリネが改良したピストンバルブで、3本ピストンのトランペットの形が整う |
ハイドンの協奏曲は、穴とキーで半音を出せる楽器を開発したトランペット奏者ヴァイディンガーのために書かれ、初演も彼が吹きました。ホルンの奏法は、ベルの中で右手を動かし、出入りさせることで音程を変えるもので、自然倍音の間の音まで、半音階をある程度吹けるようにしました。ホルンが手で半音を作ったのに対し、トランペットは管に穴を開けるという別の答えを一度試したことになります。
どちらの工夫も、最後はバルブに置き換わりました。いまホルンが回転式、トランペットがピストン式を使うことが多いのは、こうした別々の道の名残です(ここは私の整理です)。
どんな場面で吹かれるのか
ホルンは、フルート・オーボエ・クラリネット・ファゴットと並んで、木管五重奏の標準の一員です。金管五重奏では、トランペット2本、ホルン、トロンボーン、テューバという並びが基本で、両方が入ります。
総譜(スコア)の上での置き場所にも、ホルンの立ち位置が表れます。ふつうはトランペットの上、金管の段に書かれますが、ワーグナーはホルンを木管の側の楽器と見て、総譜で木管の段に置いたとされます。金管の仲間でありながら、木管とも混ざり合う楽器として扱われてきたことが分かります。
一段深く:同じF4を、第3倍音と第8倍音で吹く
音響設計の目で、同じ実音のF4(中央のドの上のファ)で比べてみます。B♭管のトランペットは基音がB♭2なので、F4はその第3倍音です。F管のホルンは基音がF1なので、同じF4が第8倍音になります。
計算上、トランペットの第3倍音のすぐ下の倍音は約700セント(完全5度)下、すぐ上は約500セント(完全4度)上にあります。ホルンの第8倍音では、下の倍音まで約230セント、上の倍音まで約200セントしかありません。同じ高さの音でも、ホルン奏者は全音ほどの幅の中で狙いを定めていることになります。
ただし、これは音の当てやすさの話で、音色の違いを説明するものではありません。音色はマウスピースやベルの形にも左右されるので、倍音の位置だけでは決まりません。
よくある質問
Q. ダブルホルンとは何ですか
A. F管とB♭管の2つの管を1台に組み込み、バルブで切り替えられるホルンです。F管だけのホルンは、高い音域で倍音どうしが詰まり、正確に当てるのが難しくなります。そこで高い音域では管の短いB♭側を使い、同じ音を倍音列の少し低い位置で出せるようにしています。
Q. 楽譜はどちらも移調して書かれているのですか
A. はい。F管のホルンは書いた音より完全5度低く、B♭管のトランペットは長2度低く鳴ります。同じ音を一緒に吹く場面でも、2人の楽譜には別の音符が書かれています。
まとめ
ホルンとトランペットは、どちらも唇で鳴らす金管ですが、F管のホルンはトランペットの2倍以上の長さの管を持ち、倍音列の高い帯域で旋律を吹きます。同じ高さの音を、長い管の上のほうと短い管の下のほうで出しているのが、2つの楽器のいちばん大きな違いです。次にオーケストラを聴くときは、同じ旋律をホルンとトランペットが受け渡す場面を探してみてください。
この記事を書いた人
小林悠真(こばやし・ゆうま)/一般社団法人LFコンサート 代表理事/テューバ奏者。広島県三次市出身。九州大学で音響設計と音楽マネジメントを学び、デザイン思考を軸に持つ。演奏する側の実感と“音の仕組み”の両面から、「誰もが音楽にたどり着ける道筋」のリデザインに取り組む。
