一般社団法人LFコンサート
← コラム一覧
コラム金管楽器の話

フリューゲルホルンとトランペットは何が違うのか|同じB♭管でも音が丸い理由

フリューゲルホルンとトランペットは何が違うのか|同じB♭管でも音が丸い理由

フリューゲルホルンとトランペットは、どちらもB♭管で、バルブは通常3本、指使いも同じです。管の全長と音域も同じとされ、トランペット奏者が持ち替えて吹くことも多い、よく似た金管楽器です。

それでも、並べて聴けば音はすぐに聞き分けられます。違いの核心は、管が円筒のまま進むか、早めに広がり始めるかという、管の広がり方にあります。ここで扱うのは、もっとも一般的なB♭管です。

フリューゲルホルンとトランペットの違い:まず1分だけ

トランペットは、管の大部分が同じ太さの円筒で、ベルの手前までそのまま進み、ベルの部分で開きます。フリューゲルホルンは外観がコルネットに近く、管の内径の開きはそのコルネットよりも早いと説明されます。円錐状に広がる部分が長い楽器です。

名前の「フリューゲル」はドイツ語で「翼」の意味です。どこから来た楽器かは、後の「生まれた時代」の節で整理します。

並べて見ると、同じなのは長さと音域です

比べる点

トランペット

フリューゲルホルン

管の広がり方

円筒の部分が長く、ベルで開く

円錐状に広がる部分が長い

マウスピース

トランペット用

別の形で、軸(シャンク)が違う。カップは深い漏斗状の傾向

音色

明るく、よく通る

太く柔らかく、暗めで甘い

音域(B♭管)

記譜でF♯3〜C6が一般的

同じ範囲。ただし高音域は扱いにくいとされる

主な活躍の場

オーケストラ、吹奏楽、ジャズ

ブラスバンド、ジャズ。管弦楽ではまれ

この表で大事なのは、音域の行です。フリューゲルホルンは“低い音のためのトランペット”ではなく、同じ音域を、別の音色で吹くために選ばれる楽器だということが分かります。トランペットの音域は記譜と実音のずれまで整理した記事で確かめられます。

音色の差が生まれる理由:広がりが早いと、丸くなる

金管楽器の管の形は、大きく二つの考え方に分かれます。オーストラリアのニューサウスウェールズ大学(UNSW)物理学部のジョー・ウルフ氏の解説では、トランペット、トロンボーン、ホルンは、管の大部分が円筒の側に置かれています。ビューグル、コルネット、ユーフォニアム、テューバは「ずっと長い広がりと短い円筒部分」を持つ、別の一族です。

同じ解説には、広がりの部分はトロンボーンよりテューバが、トランペットよりフリューゲルホルンが長い、とも書かれています。つまりフリューゲルホルンは、トランペットと同じ長さと指使いのまま、広がりの長い側へ寄った楽器と見ることができます。この解説は、フリューゲルホルンをどちらの一族にも分類していないため、ここは私の整理です。円筒と円錐の説明は、トランペットとコルネットを比べた記事でも扱っています。

マウスピースも違いを後押しします。フリューゲルホルン用はトランペット用より深い漏斗状だとされ、軸の寸法も違うため、トランペットのものは通常そのままでは使えません。ただし「カップが深いほど暗い音になる」とは、まだ言い切れません。この点はカップの容積を計算で変えてみた記事で、音色そのものは計算では確かめられなかったと報告しています。

二つの楽器が生まれた時代:バルブが広がった19世紀

バルブがなかった頃のトランペットは、ひとつの倍音列の音しか出せませんでした。信号用のラッパ(ビューグル)も同じで、音を増やすための工夫が19世紀に相次ぎます。

年

場所

できごと

1828年

ベルリン

ベルリンでシュテルツェルが、バルブ付きのビューグルを販売

1832年

ミュンヘン

ミュンヘンのザウアレに「半音階フリューゲルホルン」の特権が出された記録(最も早い記録とされる)

1830年代末

パリ

パリでペリネがピストンバルブを改良し、3本ピストンのトランペットの形が整う

1845年

パリ

パリでサックスがサクソルンを特許取得。B♭のソプラノ・サクソルンが現代のフリューゲルホルンの手本

1853年

マンチェスター

マンチェスターで、オープン(参加自由)のブラスバンド選手権が開かれる

誰が最初かは、資料によって割れます。シュテルツェル説、ザウアレ説、サクソルンの系統とする説があり、ここでは断定しません。

分かれ目は使い道でした。トランペットはバルブの採用が遅く、作曲家はファンファーレ的な場面にトランペット、旋律にコルネットを書き分けました。一方、サックスのバルブ楽器は英国のブラスバンドの成長を助けたとされ、広がりの早い楽器はそこで居場所を得ました。同じ指使いでも、育った演奏の場が違う、と言えそうです(私の整理)。

どんな場面で吹かれるのか

英国式のブラスバンドの標準編成には、B♭のフリューゲルホルンが1本入っています。この編成ではコルネットが旋律の中心で、トランペットは使われません。

ジャズでも使われます。マイルス・デイヴィスのアルバム『マイルス・アヘッド』(1957年)などが、この楽器を広く知らせた例として紹介されます。

管弦楽では、ヴォーン・ウィリアムズの交響曲第9番(1958年初演)が知られます。第2楽章の冒頭が、フリューゲルホルンの独奏です。作曲者は解説で、この楽器を管弦楽の“選ばれた輪”にふだんは入れてもらえない楽器と書いたと伝えられます。

一段深く:大きな音で吹くと、差はさらに開く

音響設計の目で見ると、差が出るのは小さな音よりも大きな音のときです。ウルフ氏の解説では、強く吹いたとき管の中の空気は直線的にはふるまわず、高い倍音が増えて音が明るくなります。この非線形の効果は、長く細い円筒部を持つトランペットやトロンボーンで強く、フリューゲルホルンやテューバでは弱いと書かれています。

ここから先は私の推測です。この解説の通りなら、フォルテに向かって輝きを増していくトランペットに対し、フリューゲルホルンの音は大きくなっても丸さを保ちやすいはずです。

同じ解説では、テューバもフリューゲルホルンと並んで、この非線形の効果が弱い側に挙げられています。広がりの一族のもう一つの中音域担当は、ユーフォニアムとバリトンを比べた記事で扱っています。

よくある質問

Q. トランペットのマウスピースをフリューゲルホルンに使えますか

A. 通常は使えません。口径は近くても、楽器に差し込む軸(シャンク)の形が違うためです。

Q. トランペット奏者がフリューゲルホルンを吹くことはありますか

A. あります。指使いが同じなので、トランペット奏者が持ち替えて吹くことは珍しくありません。ただ、フリューゲルホルンは管が広いぶん、高音域では音の立ち上がりを揃えることも音程を合わせることも、トランペットより難しいとされます。

まとめ

フリューゲルホルンとトランペットは、同じB♭管で、管の長さも音域も指使いも変わりません。違うのは管の広がり方とマウスピースで、トランペットは明るくよく通り、フリューゲルホルンは丸く柔らかい音になります。次にバンドやジャズを聴くときは、同じ旋律でも、音の角の丸さに耳を向けてみてください。

この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/一般社団法人LFコンサート 代表理事/テューバ奏者。広島県三次市出身。九州大学で音響設計と音楽マネジメントを学び、デザイン思考を軸に持つ。演奏する側の実感と“音の仕組み”の両面から、「誰もが音楽にたどり着ける道筋」のリデザインに取り組む。

公演・鑑賞教室のご相談、活動へのご賛同を

演奏会の企画や学校・施設向け鑑賞教室のご相談、活動へのご賛同まで、お気軽にお問い合わせください。

お問い合わせ
← コラム一覧に戻る