トランペットの音域は、記譜では F♯3 から C6 あたりまでが一般的に使われる範囲です。いちばん多い B♭管は、書いてある音より長2度低く鳴るので、実際に聞こえる音は E3 から B♭5 になります。
検索で「トランペット 音域」を調べると、数字が資料ごとに違って見えて戸惑うことがあります。多くの場合、原因は記譜の音と実際に鳴る音(実音)が混ざっていることです。
トランペットの音域:まず1分だけ
トランペットは、3本のピストンバルブで管の長さを切り替える金管楽器です。C4 を真ん中のドとして読むと、B♭管の音域は次のように整理できます。数値はいずれも一般的な楽器法で示される範囲で、実用上の目安です。
項目 | B♭管 | C管 |
|---|---|---|
記譜上の一般的な範囲 | F♯3〜C6 | F♯3〜C6 |
実際に鳴る音(実音) | E3〜B♭5 | F♯3〜C6 |
記譜と実音の関係 | 実音は記譜より長2度低い | 記譜と実音が同じ |
よく使われる場面 | 吹奏楽、ジャズ、オーケストラ | オーケストラ(国や奏者によって使い分けが違う) |
C6 より上を吹く奏者もいますし、手前で苦しくなる奏者もいます。上の端は楽器の構造というより、唇のコントロールと体力で決まる部分が大きいからです。
B♭管とC管で、記譜と実音はどうずれるのか
B♭管は「移調楽器」で、楽譜のドを吹くと実際にはシ♭が鳴ります。ピアノと合わせるときは、ピアノの譜面が実音で書かれるため、トランペット奏者は頭の中で長2度ぶん読み替えて吹くことになります。C管は読み替えが要らないので、スコアと同じ高さで音が鳴ります。
ずれの具合を、B♭管の記譜と実音で並べておきます。
記譜(楽譜に書かれた音) | 実音(実際に鳴る音) |
|---|---|
F♯3(最低音) | E3 |
C4(真ん中のド) | B♭3 |
C5 | B♭4 |
C6 | B♭5 |
この表のとおり、どの行も2半音ずつ低くなっているだけです。「トランペットの音域は E3 から」と書いてある資料は実音、「F♯3 から」と書いてある資料は記譜で、どちらも間違いではありません。
C管は何のために使われるのか
オーケストラでC管が選ばれるのは、記譜と実音が同じだからです。スコアの上でほかの楽器と音の高さをそろえて読めるので、調号の多い曲でも運指の考え方がすっきりします。C管はB♭管より管が少し短く、音色もやや明るい傾向があるとされます。
ただし、奏者が曲ごとにB♭管とC管を持ち替えるかどうかは、作品や指揮者の好み、奏者の習慣によって変わります。吹奏楽ではB♭管が標準で、C管を見かける機会は多くありません。
一段深く:最低音が F♯3 になる理由
ここで音響の側から、1つ計算をしてみます。トランペットはバルブを押さない状態で、記譜 C4、G4、C5、E5、G5…というように、倍音列の音しか出せません。その隙間をバルブで埋めるのですが、3本のバルブが下げる量は、第1が全音(2半音)、第2が半音、第3が短3度(3半音)です。全部を同時に押すと、合計で6半音下がります。
記譜 C4 から6半音下がると F♯3 です。ここが、ふつうに使える最低音になる理由です。そして C4 と、その次の倍音 G4 から6半音下がった C♯4 がちょうどつながるので、F♯3 から上は半音階が途切れずに出せます。これより下の C3 付近は「ペダル音」と呼ばれ、特殊な効果として使われることはあっても、常用はしません。
私が吹くテューバも原理は同じで、バルブで倍音の隙間を埋めています。ただ管がずっと長い分、低い音域では隙間が広がり、4本目のバルブが必要になります。バルブを2本以上押すと音程が上ずるのはなぜかも、この「バルブの組み合わせで管を継ぎ足す」仕組みから出てくる話です。
他の金管楽器の音域とどう違うのか
金管全体の音域をまとめて見たいときは、金管楽器の音域一覧が早道です。そちらでは、トランペットを含む5つの楽器を同じ物差しで並べ、基音と実用域の下限の関係まで書いています。一覧ではトランペットを実音で「E3〜C6」と載せています。下端のE3はこの記事と同じで、上端のC6(実音)は記譜ではD6にあたり、この記事の表より全音だけ広く取っています。上の端は奏者の技量で大きく動く部分なので、どちらも目安として読んでください。
高音域がなぜ難しいかは、倍音列の間隔で説明できます。高くなるほど倍音の間隔は詰まり、唇の振動をわずかに間違えるだけで隣の倍音に飛びます。ホルンはなぜ「難しい楽器」と言われるのかで書いたのは、同じ倍音列の話を、さらに音が詰まった世界へ進めたものです。
よくある質問
Q. トランペットの最高音はどこまで出ますか
A. 決まった上限はありません。記譜 C6 を超える音を使う作品もあり、ジャズやハイノートを得意とする奏者は、さらに上まで出します。ただし、実用上の目安としては C6 前後までを範囲として見るのが一般的です。
Q. ピッコロトランペットは音域が違いますか
A. 違います。ピッコロトランペットは、バロック音楽の高い声部を無理なく吹くために作られた小型の楽器で、通常のB♭管より高い調で作られています。音域も高い側へずれるので、ここで書いた数字はふつうのB♭管とC管の話です。
まとめ
トランペットの音域は、記譜で F♯3〜C6、B♭管の実音で E3〜B♭5 です。資料によって数字が違って見えるときは、記譜と実音のどちらを書いているかを先に確かめてください。最低音が F♯3 になるのは、3本のバルブが下げられる量が、合計で6半音だからです。
この記事を書いた人
小林悠真(こばやし・ゆうま)/一般社団法人LFコンサート 代表理事/テューバ奏者。広島県三次市出身。九州大学で音響設計と音楽マネジメントを学び、デザイン思考を軸に持つ。演奏する側の実感と“音の仕組み”の両面から、「誰もが音楽にたどり着ける道筋」のリデザインに取り組む。
