一般社団法人LFコンサート

テューバ奏者の自習室

楽器にまつわる“よく言われること”を、音響シミュレーションで一つずつ確かめています。数字で言えたことと、まだ言えないことを、同じだけの分量で書きます。

高地で音程が下がるのは気圧のせいか

標高の高い場所では音程が変わる、という話を気圧と気温に分けて計算しました。標準大気の3000mで音程は62セント下がりますが、気圧だけを下げたぶんは4.8セントで、気づける目安の5セントに届きません。残りは標高が上がると気温も下がるぶんです。気圧が効いていたのは音程ではなく、音のツボの深さ(最大4.7dB)でした。

グリスで気密が変わると音は変わるのか

「グリスで気密が変わるから音が変わる」という説明を、抜差管やバルブの合わせ目のすきまを直径0.0002〜1mmまで振って計算しました。グリスが埋める直径0.04〜0.1mmでは、合わせ目ひとつあたりの音程の変化は0.10561セント以下=目安5セントの1/47以下。音のツボの深さが1dBに届くのは直径0.2mmからで、そこはもう銘柄ではなく嵌合が緩んだ状態でした。

マウスピースの挿し込み深さで音は変わるのか

マウスピースを深く挿すと音程が上がる、という話を音響シミュレーションで確かめました。向きは通説どおりですが、1mmあたり平均0.36セント、±4mm振っても最も動く音で2.7セントどまりです。しかも平均で見れば、その多くは“挿したぶん管が短くなった”当たり前の成分で、どこまでがその成分かは何を基準に置くかで決まり、一意には決まりません。

バルブ区間を太くすると吹きやすくなるのか

“ボアが太いほうが息が通る”という説を、バルブ区間の内径を19mmのまま/19→21mmへ段階的に/全区間21mmの3通りで計算しました。バルブ区間だけなら圧力の落ちは15〜30%減りますが、そこは全体の1割ほど。合計では−2.0%にとどまります。音のツボの深さも14マス中5マスしか目安の1dBを超えず、深くなる音と浅くなる音が混ざりました。

凹み(デント)はどこにできると痛いのか

凹み(デント)は見た目だけの問題か、それともすぐ修理すべきか。計算機の中のB♭テューバに深さ25%の凹みを25か所つくって調べたところ、25点のうち24点が知覚の目安5セントを超えました。ただしこれは全周が一様にへこむ計算で、実物の片側だけの凹みならセントの動きはひと桁小さくなります。

カップが深いと暗い音になるのか

「深いカップは暗い音になる」という話を、マウスピースのカップ容積を0.6〜1.4倍に振って計算しました。音色そのものはこの計算では扱えず確かめられませんでしたが、音程には差が出ました。いちばん浅い形といちばん深い形で、音によって8.4〜23.2セント動きます。動き方が音ごとに違うので、いちばん動く音といちばん動かない音で14.7セント開きました。

ストーブパイプは音が締まる、急拡大は明るい、は本当か

「ストーブパイプは締まる、急拡大は明るい」という言説を、ベルの開き方(フレア指数)を4段階に振って計算しました。低い音(モード2)は34.1セント動きますが低次と高次は逆向きに動き、高次側(モード9以降)でいちばん高い山の位置そのものはどの形でも動きませんでした。ただし外へ出ていく音の明るさそのものは、この計算では判定できません。

マウスパイプの長さは何に効くのか

「マウスパイプは長いほど鳴りが良くなる」「交換すると音程の並びが変わる」という話を、長さを±15%の範囲で振って計算しました。何も調整しない場合と、抜差で合わせ直した場合とでは結果が大きく違います。合わせ直すとツボの深さはほとんど動かず、音程はモード4だけ逆向きに残ります。±5%でも残る音どうしの差は5〜6セントで、5セントの目安をわずかに超えます。

マウスピースのギャップに最適値はあるか

マウスピースとマウスパイプの間にできる「ギャップ」に最適な大きさがあるのか、0〜8mmで計算しました。音程は拡げるほど一方向に下がり続け、山も谷もありません。小さいギャップ(1〜2mm)では音程でもツボの深さでも気づける差になりませんでした。

オイルで音は変わるのか、汚れではどうか

オイルの銘柄で音が変わるという話と、掃除していない管は音程が狂うという話を、同じ「内側に積もった厚み」という物差しで計算しました。両者を分けているのは厚みだけで、その間には2桁の開きがあります。

冷えるとピッチが下がる。では暖めれば直るのか

冷えると音程が下がるのは計算でも本当で、約2.9セント/℃。ただし吹き始めは管の中に温度差ができ、モードごとのずれ方が揃いません。暖まるほど戻りますが、揃い方までは戻りきりませんでした。

抜差管1mmで2セント動く、は本当か

「チューニング管を1mm抜くと約2セント」という目安をテューバで計算しました。平均は−0.57セント/mmで、よく言われる2セント/mmの約1/3.5。この目安はトランペット由来で、管が長い楽器にそのまま持ち込めません。

ベルが大きいほど音量が出る、は本当か

ベル径だけを4段階に変えて計算しました。音量そのもの(放射される音)は計算していませんが、測った「音のツボの深さ」は低い音域ではほとんど動かず、変化が出るのは高い音域だけ。「低音ほどベルが効く」は逆でした。

バルブを2本以上押すと音程が上ずるのはなぜか

1番と3番を一緒に押すと音程が合わない、という話を音響シミュレーションで確かめました。2本以上の組み合わせ11通りはすべて上ずる向きにずれ、ずれの大きさは押した本数ではなく足した管の総長で決まります。

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