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コラムテューバ奏者の自習室

ベルが大きいほど音量が出る、は本当か

ベルが大きいほど音量が出る、は本当か

テューバを選ぶとき、「ベルが大きいほうがよく鳴る」と勧められた経験のある奏者は多いと思います。ベル径が楽器選びの決め手として語られることもあります。経験則なのか、気柱の共鳴という構造から出てくる話なのか、計算で確かめました。

結論

この記事で計算したのは「音のツボの深さ」です。ある音を狙ったときに楽器の側がどれだけ強く支えてくれるか、という量で、音量そのものではありません。深いほど、その音に当てやすく外れにくくなります。

よくある疑問

判定

ひとこと

ベルが大きいほど音量が上がる

今回は確かめられず

外へ出ていく音そのものは計算していません。測ったのはツボの深さです

ベル径を変えるとツボの深さは変わる

条件つき

低い音域はほぼ動かず、高い音域だけ動きます。最大は350mmの+1.09dBで、気づける目安の1dBをわずかに超えます

低い音域ほどベルの影響を受ける

違った

逆でした。低い音域の変化は0.15dB未満で、動くのは高い音域のほうです

検証したこと

計算機の中に置いたのは、下の形のB♭テューバです。実物の4/4サイズを想定して組んだ架空の基準モデルで、このシリーズの記事はすべて同じ楽器を使っています。

計算に使ったB♭テューバの断面図。マウスピース・リードパイプ・バルブ区間・枝管・ベルの位置と、全長約5.6m、ボア19mm、ベル径400mmを示している
  • 管の全長:まっすぐ伸ばすと約5.6m
  • ボア(バルブ区間の内径):19mm。実物の4/4サイズと同じ寸法です
  • ベル径:400mm。実機の4/4(概ね420〜480mm)よりやや小さめです
  • 基準:A4=442Hz、管の中は25℃

この楽器のベル径だけを4段階に取り替えました。

  • ベル径:350mm/400mm(基準)/450mm/500mm
  • 固定したもの:ベルの長さ(約81cm)、喉の太さ(径107mm)、他の管体すべて
  • 再調律なし:ベルを替えたあとにチューニングし直していません
比べた4つのベルの輪郭を重ねた図。縦横は実物と同じ比率で、350mmから500mmまで先端の開きだけが違う

図のとおり、根元は4本とも同じで、違いが出るのは最後の数十cmだけです。これが結果を決めます。

ベルの先は、低い音を通さない

管の開口部は、周波数が低いうちは音を跳ね返す“壁”のように、上がると外へ抜ける“開いた出口”のように振る舞います。この切り替わりが起きる周波数は、ベルが広いほど低くなります。広げるほど、低いほうの音から順にツボが浅くなっていく、というのが計算前の予想でした。

検証結果

基準(400mm)に対するツボの深さの差を、モードごと(2〜13番目)に見ました。プラスは基準より深い、マイナスは浅いという意味です。

ベル径

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

13

350mm

0.0

0.0

0.0

+0.1

+0.4

+0.4

+0.7

+0.8

+0.7

+1.0

+1.1

+1.0

400mm(基準)

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

450mm

0.0

0.0

0.0

0.0

−0.2

−0.2

−0.4

−0.5

−0.4

−0.5

−0.6

−0.4

500mm

0.0

+0.1

0.0

0.0

−0.2

−0.3

−0.5

−0.7

−0.5

−0.5

−0.5

0.0

単位はdBです。低い音域(モード2〜5)はほぼ動きません。差が出るのはモード6以降で、広げるほどツボは浅くなり、絞るほど深く残ります。最大は350mmのモード12で+1.09dB、500mmのモード9で−0.7dBでした。

ベル径ごとのモード別のツボの深さの変化。低い音域はほぼ動かず、絞った側が高次モードで知覚目安1dBをわずかに超える

もうひとつ、ツボそのものが検出できなくなる帯が出ました。数えられた山の数は350mmが17、400mmが16、450mmが14、500mmが15。450mmでは387〜481Hzで山の間隔が通常の3.2倍に開いて2本ぶんが埋もれ、500mmでも390〜452Hzで2.1倍に開いて1本ぶんが埋もれています。

疑問と照らし合わせる

「大きいほど音量が上がる」→ 今回は確かめられず

この計算で測ったのは、マウスピース側から見たツボの深さです。外へ出ていく音の大きさは計算していません。放射は別の物理で、今の計算では手が届いていません。

「ベル径を変えるとツボの深さは変わる」→ 条件つき

400mmから500mm(+25%)に広げても、深くなったモードはひとつもなく、最大でも−0.7dBでした。逆に350mm(−12.5%)に絞ると高い音域で最大+1.09dB深くなり、気づける目安の1dBをわずかに超えました。絞ったほうがツボは深いという結果です。

ただし注意が必要です。ツボが浅くなることと、外へ出ていく音が増えることは、同じ現象の裏表かもしれません。管の中に留まらないぶん外に出ている、という読み方ができるからです。この計算だけでは、どちらの説明が正しいか決められません。

「低い音域ほどベルに影響される」→ 違った

逆でした。低い音域(モード2〜5)の変化は0.15dB未満でほぼ無風で、動くのは高い音域だけ。ベルは低音を支えている、という感覚とは計算上は合いません。ベルの違いが最後の数十cmにしかないことを思い出すと、波長の長い低い音ほどその差を感じ取れない、というのは筋が通ります。

用語のはなし

ツボの深さは、この記事で使っている言い方です。音響の言葉では入力インピーダンスのピークの高さと言います。マウスピース側から見て、その周波数で楽器の中の空気がどれだけ強く押し返してくるかを表す量で、高いほど唇の振動が支えられ、その音に当てやすくなります。

気柱の共鳴とは、管の中の空気が特定の周波数で振動しやすくなる現象です。テューバはこの共鳴を利用して音を出します。ツボは、この共鳴が起きている周波数にできます。

モードは共鳴が起きる周波数の順番です。番号が上がるほど高い音に対応します。

dB(デシベル)は量の比を表す目盛りです。この記事のdBはツボの深さの差であって、耳に届く音の大きさではありません。人が気づくとされる1dBという目安も本来は音の大きさに対するもので、ここでの比較は目安として借りています。

この記事について

この記事は、気柱の共鳴だけを扱う計算モデルによる検証です。動かしたのはベル径だけで、喉の太さ・開き方(フレア)・肉厚・材質は固定しています。「山が消える」はピークの目立ち具合に閾値を置いた機械的な判定です。放射や奏者の吹奏感は対象外で、実際の楽器で同じ結果になるとは言えません。

「この説も計算してみてほしい」というものがあれば、ぜひテューバ奏者の自習室の投稿フォームから教えてください。お名前も連絡先も要りません。順番に検証して、結果が出たものから記事にします。

この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/一般社団法人LFコンサート 代表理事/テューバ奏者。広島県三次市出身。九州大学で音響設計と音楽マネジメントを学び、デザイン思考を軸に持つ。演奏する側の実感と“音の仕組み”の両面から、「誰もが音楽にたどり着ける道筋」のリデザインに取り組む。

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