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コラムテューバ奏者の自習室

マウスパイプの長さは何に効くのか

マウスパイプの長さは何に効くのか

テューバ奏者の間では、マウスパイプ(図の「リードパイプ」)を交換すると鳴りが良くなる、音程の並びが整う、という話をよく聞きます。長いと抵抗感が増して音が太くなる、とも言われます。経験則か構造由来か、長さだけを振って計算で確かめました。

結論

測ったのは、音程のズレ(セント)と、音のツボの深さ(入力インピーダンスのピークの高さ)の2つです。マウスパイプを交換したときに何も調整しない場合と、抜差で合わせ直した場合とでは結果が大きく変わるため、判定はこの違いを踏まえて出します。

よくある疑問

判定

ひとこと

長いマウスパイプはツボが深くなる

違った

抜差で合わせ直したあとでも変化は±0.9dB以内。向きもモードごとに割れます

交換すると音程の並びが変わる

本当

合わせ直したあとはモード4だけが逆向きに外れます(−15%で+11.1セント、他は−6.2〜+4.2セント)

ちょっと替えたくらいでは分からない

条件つき

何も調整しなければ楽器全体が14セント動きます。抜差で合わせ直せば、残るのは音どうしの差で5〜6セント、1音あたりでは4セント弱

抵抗感が変わる

今回は確かめられず

受動的な気柱の応答だけを見るモデルでは評価できません

マウスパイプを長くすると音程が下がる

条件つき

下がるのは楽器全体が長くなるからです。全長を揃えて比べると、平均のズレは±2.2セントまで縮みます

検証したこと

計算機の中に置いたのは、下の形のB♭テューバです。実物の4/4サイズを想定して組んだ架空の基準モデルで、このシリーズの記事はすべて同じ楽器を使っています。

計算に使ったB♭テューバの断面図。マウスピース・リードパイプ・バルブ区間・枝管・ベルの位置と、全長約5.6m、ボア19mm、ベル径400mmを示している
  • 管の全長:まっすぐ伸ばすと約5.6m
  • ボア(バルブ区間の内径):19mm。実物の4/4サイズと同じ寸法です
  • ベル径:400mm。実機の4/4(概ね420〜480mm)よりやや小さめです
  • 基準:A4=442Hz、管の中は25℃

この楽器のマウスパイプだけを、長さを7段階で伸び縮みさせました。

  • 振った量:基準の長さ962.6mmから、−15 / −10 / −5 / 0 / +5 / +10 / +15%の7段階(±5%で約48mm)
  • 固定したもの:入口の内径13mmと出口の内径19mm(「検証したこと」のボアと同じ寸法です)。枝管・下部の湾曲・ベルは再調律していません
  • 見た音域:モード2〜8(開放で出せる低い音から、高い方の音まで)

「マウスパイプを長くする」には3つの操作がある

マウスパイプを替えたとき、そのあとどう扱うかで結果はまったく違うものになります。次の3つに分けて計算しました。

  • A・何も調整しない:替えただけで全長も一緒に変わる状態
  • B・全長を揃えて作られた楽器:マウスパイプ長だけが違い、全長は同じになるよう作られた状態
  • C・抜差で合わせ直した状態:交換後、主管抜差でモード2〜8の平均を基準に合わせ直した状態

BとCはほとんど同じ結果になったため、以下はAとCを中心に見ていきます。Bは「全長を揃えて作られた楽器でも結論は同じ」という確認として扱います。

検証結果

まずA・何も調整しない場合です。基準(0%)からの音程のズレ(セント)を、長さを7段階で振って見ています。

長さ変化

モード2

3

4

5

6

7

8

−15%

+36.0

+30.6

+70.6

+46.4

+35.8

+49.1

+40.9

−10%

+23.7

+20.5

+47.3

+30.0

+23.6

+32.9

+27.0

−5%

+11.7

+10.3

+23.7

+14.6

+11.7

+16.5

+13.4

基準

0

0

0

0

0

0

0

+5%

−11.5

−10.6

−23.6

−13.8

−11.6

−16.6

−13.2

+10%

−22.7

−21.3

−46.8

−26.9

−23.3

−33.3

−26.1

+15%

−33.7

−32.4

−69.7

−39.5

−35.2

−49.8

−39.0

短くすれば上がり、長くすれば下がりますが、この大きな数字のほとんどは全長も一緒に変わっただけの成分です(±15%で全長は約2.6%動きます)。

次にC・抜差で合わせ直した場合です。ここからが本題です。

長さ変化

モード2

3

4

5

6

7

8

−15%

−6.2

+1.1

+11.1

+4.2

−1.4

−5.7

−3.1

−10%

−3.9

+1.0

+7.6

+2.4

−1.3

−3.9

−1.8

−5%

−1.8

+0.7

+3.8

+0.9

−0.8

−1.9

−0.8

基準

0

0

0

0

0

0

0

+5%

+1.6

−0.9

−3.6

−0.4

+1.1

+1.8

+0.5

+10%

+3.0

−2.0

−7.0

−0.4

+2.4

+3.3

+0.7

+15%

+4.2

−3.3

−9.8

+0.2

+3.7

+4.4

+0.6

マウスパイプの長さ変化に対する音程のズレを上下2段で対比する折れ線グラフ。上段は何も調整しない場合で最大約70セント動き、下段は抜差で合わせ直した後で最大約11セントに縮む。どちらもモード2〜8の7本の線を重ね、モード4だけ強調している

ズレの大きさはおよそ6分の1に縮みますが、一様には消えません。モード4だけが逆向きに残り、−15%のとき+11.1セントで最も高い方へ外れる一方、他は−6.2〜+4.2セントに収まります。

C・+10%のときの音のツボの深さの変化は次のとおりです。

モード

2

3

4

5

6

7

8

Δ(dB)

+0.45

+0.47

−0.01

−0.46

−0.33

+0.13

+0.33

ケースC・+10%伸長時の、モード2〜8それぞれの音のツボの深さの変化(dB)を示す棒グラフ。比較のための1dB線の内側にどの棒も収まっている

音程は最大70.6セント動く一方、ツボの深さの変化は合わせ直した後で±0.5dB以内です(何も調整しない場合まで含めても−0.90〜+1.04dB)。

どこで長さを合わせるかで、残る量が2〜3倍変わる

抜差による調整は、内径19mmのまっすぐな区間(主管抜差の位置)で行いました。同じ操作を広がっていくテーパー区間で行うとどう変わるか比べました。

長さ変化

等断面で詰める

テーパーで詰める

−15%

18.3c

40.2c

2.2倍

−5%

6.0c

14.5c

2.4倍

+5%

5.6c

14.8c

2.7倍

+15%

15.1c

43.1c

2.9倍

どちらも音程のズレを帳尻合わせした状態ですが、合わせる場所によって残る不揃いは2〜3倍変わります。本文の数値(B・C)は実物の主管抜差が円筒部にあるという想定で等断面側を採っており、これはモデルの必然ではなく設計上の選択です。

疑問と照らし合わせる

「長いマウスパイプはツボが深くなる」→ 違った

抜差で合わせ直したあとのツボの深さの変化は、スイープ全体で−0.9〜+0.9dBです。動く向きもモードごとに割れており、+10%のときは4モードが深くなる側、3モードが浅くなる側でした。この計算の範囲では「長い方がツボが深くなる」という一方向の主張は支持されませんでした。

「交換すると音程の並びが変わる」→ 本当

抜差で合わせ直したあとも、モード4だけが逆向きに残ります。−15%のとき、モード4は+11.1セントで最大、他のモードは−6.2〜+4.2セントに収まります。音程を一律に動かす「つまみ」ではなく、モード4だけ余分に動かす「つまみ」でした。何も調整しない場合の大きな差は楽器全体が一律に動く分を含んでおり、モード4だけの効果ではありません。

「ちょっと替えたくらいでは分からない」→ 条件つき

何も調整しなければ、±5%(約48mm)でも楽器全体が14.4〜14.6セント動きますが、大半は全長が変わった一律成分です。抜差で合わせ直すと、残る音どうしの差は5.4〜5.8セントで、5セントの目安をわずかに超えます。1音あたりの最大ズレは3.65〜3.81セントで、こちらは目安の内側です。どの音も5セント以上ずれる、という意味ではありません。

「抵抗感が変わる」→ 今回は確かめられず

この計算(線形音響のモデル)は受動的な気柱の応答だけを見ており、唇の自励発振や息づかいが生む抵抗感・吹奏感は評価できません。通説は検証も反証もできませんでした。

「マウスパイプを長くすると音程が下がる」→ 条件つき

何も調整しなければ、たしかに長くすると下がります。ただしその大半は、マウスパイプが伸びたぶん楽器全体が長くなった分です。全長を揃えて作ると、平均のズレは±2.2セントまで縮み、抜差で合わせ直した場合ともほぼ一致します。

用語のはなし

セントは音程の細かさを表す単位です。半音を100等分したものが1セントで、人が違いに気づけるのはおよそ5セントからが目安とされます。

音のツボの深さは入力インピーダンスのピークの高さのことです。空気がどれだけ強く共鳴するかの目安で、外へ出る音の大きさ(音量)が同じだけ変わるとは限りません。

モードは、テューバが出せる音の高さの並びの通し番号です。バルブを押さずに出せる音の系列で、数字が大きいほど高い音になります。

テーパーは、管の内径が長さ方向にどれだけ太くなるかを表す言葉です。このモデルでは入口(内径13mm)から出口(内径19mm)へ緩やかに太くなります。

抜差は、U字形の管を出し入れして長さを変え、音程を微調整する仕組みです。主管の抜差を動かすと、バルブを押さない音の並び全体が一緒に動きます。

この記事について

  1. 「マウスパイプを長くする」という言い方には、じつは別々の操作が混ざっています。①替えただけで何も調整しない場合、②はじめから全長が同じになるように作る場合、③替えたあと抜差で合わせ直す場合の3つです。毎回どれの話かをそのつど書き分けています。三つは結果が2倍以上ちがうので、どれか一つの数字を「マウスパイプの効果」と呼ぶことはできません。
  2. 合わせ直しの計算では、内径19mmのまっすぐな区間で長さを調整しました。実物の主管抜差がこの円筒部にあるためです。もし広がっていく区間で同じだけ詰めると、残るズレは2.2〜2.9倍に増えます。どこで長さを調整するかは、結果を大きく変える選び方です。
  3. ±15%の交換を音程の面で帳消しにするには、抜差の出し入れで7.2〜7.6cmが要ります。実物の主管抜差がどこまで動くのかは、文献の値を持っていません。動く範囲を超えたぶんは、音程のズレが残ったままになります。
  4. 抜差を動かして合うのは、バルブを押さずに出す音の並びだけです。バルブの抜差管の長さは変わらないので、主管を動かすと押した音の側がずれます。今回のモデルはバルブの管を持っていないため、その量は計算していません。
  5. 入口13mm・出口19mmを固定したまま長さだけを変えているので、長さを変えるとテーパーの傾きも一緒に変わります。ここで見えているのは「長さだけの効果」ではなく、「長さとテーパーがセットで変わったときの効果」です。

この記事は数値シミュレーションで、実物の測定ではありません。市販マウスパイプは長さ以外にテーパー形状も違うため、結果は製品差を予測するものではありません。抵抗感・吹奏感は扱っていません。測ったのはツボの高さだけで、鋭さ(共鳴の幅)は計算していません

「この説も計算してみてほしい」というものがあれば、ぜひテューバ奏者の自習室の投稿フォームから教えてください。お名前も連絡先も要りません。順番に検証して、結果が出たものから記事にします。

この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/一般社団法人LFコンサート 代表理事/テューバ奏者。広島県三次市出身。九州大学で音響設計と音楽マネジメントを学び、デザイン思考を軸に持つ。演奏する側の実感と“音の仕組み”の両面から、「誰もが音楽にたどり着ける道筋」のリデザインに取り組む。

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