一般社団法人LFコンサート
コラム一覧
コラムテューバ奏者の自習室

カップが深いと暗い音になるのか

カップが深いと暗い音になるのか

マウスピースを深いカップに替えると音が暗くなり、浅くすると明るくなる、とよく言われます。この「深い=暗い」を計算で確かめようとしたのですが、確かめられませんでした。代わりに、別のところに大きな差が出ていました。

結論

この記事で計算したのは、マウスピースのカップの容積を変えたときの音程のズレと、「音のツボの深さ」の変化です。音色そのものは計算していません。

よくある疑問

判定

ひとこと

カップが深いと暗い音になる

今回は確かめられず

この計算が扱うのは楽器が音を返す強さまでで、唇が出す音の成分は対象外です。ただし同じ計算で、音程のほうにははっきり差が出ました

カップの容積を変えると音程が変わる

条件つき

変わりますが、変わり幅が音ごとに違います。いちばん浅い形といちばん深い形の差は、音によって8.4〜23.2セントでした

深くすると、どの音も同じだけ下がる

違った

下がる向きはどの音も同じでしたが、量が揃いません。いちばん動く音といちばん動かない音で14.7セント開きます

検証したこと

計算機の中に置いたのは、下の形のB♭テューバです。実物の4/4サイズを想定して組んだ架空の基準モデルで、このシリーズの記事はすべて同じ楽器を使っています。

計算に使ったB♭テューバの断面図。マウスピース・リードパイプ・バルブ区間・枝管・ベルの位置と、全長約5.6m、ボア19mm、ベル径400mmを示している
  • 管の全長:まっすぐ伸ばすと約5.6m
  • ボア(バルブ区間の内径):19mm。実物の4/4サイズと同じ寸法です
  • ベル径:400mm。実機の4/4(概ね420〜480mm)よりやや小さめです
  • 基準:A4=442Hz、管の中は25℃

このモデルのマウスピースは、カップ・スロート・バックボアを円錐台で組んだ簡単な形です。カップの長さを基準の19.0mmから前後に振りました。

  • 振った量:カップの長さ11.4/15.2/19.0(基準)/22.8/26.6mmの5段階(基準の0.6〜1.4倍)
  • 固定したもの:カップ入口の内径32.0mm、スロート、バックボア、マウスピースから先の形はすべて共通モデルと同じ
  • 見た音域:モード2〜8(低いB♭からB♭3まで、他の記事と同じ範囲)

「深さ」ではなく「容積」が動いている

このモデルのカップは円錐台なので、長さを変えると容積と円錐の角度が同時に変わります。実物の深いカップはボウル状の底が深いという意味なので、同じ操作ではありません。以下で「深い/浅い」と書くのは、あくまでカップの容積が大きい/小さいという意味です。

検証結果

音程のズレ(Δセント、カップ長19.0mm基準)は次のとおりです。

カップ長

2

3

4

5

6

7

8

11.4mm(浅い)

+4.2

+4.3

+11.4

+7.4

+6.0

+9.0

+6.7

15.2mm

+2.1

+2.2

+5.8

+3.7

+3.0

+4.5

+3.4

19.0mm(基準)

0.0

0.0

0.0

0.0

0.0

0.0

0.0

22.8mm

−2.1

−2.2

−5.8

−3.7

−3.1

−4.6

−3.4

26.6mm(深い)

−4.2

−4.5

−11.8

−7.5

−6.2

−9.3

−6.9

マウスピースのカップ長11.4〜26.6mmに対する音程のズレをモード2〜8ごとに示した折れ線グラフ。カップの容積が小さいほど音程は上、大きいほど下へほぼ直線で動き、7本が扇形に開く。傾きが最も大きいのはモード4

容積が小さいほど音程は上がり、大きいほど下がりました。途中で向きが変わる点はありません。動きがいちばん大きいのは一貫してモード4で、いちばん小さいモード2の2.7〜2.8倍動きます。

ここからが本題です。いちばん浅い11.4mmといちばん深い26.6mmを比べると、音程差はモード2から順に8.4/8.8/23.2/14.9/12.2/18.3/13.6セントでした。すべて気づける目安とされる5セントを超えています。そしていちばん動く音といちばん動かない音のあいだに14.7セントの開きがあります。楽器全体が上がり下がりするのとは別で、音どうしの間隔そのものが変わっています。

一方「音のツボの深さ」は、モード2〜8ではほとんど動きませんでした。最大は浅い側で0.40dB、深い側で0.29dBです。よく1dBが目安と言われますが、ここでのdBは楽器の中の空気がどれだけ強く押し返してくるかの差であって、耳に届く音の大きさの話ではありません。

ただし、それより高いところでは動いています。いちばん深い26.6mmでは、基準にあった412Hzのツボが山と呼べないほど浅くなって数から外れ、474Hzのツボが1.20dB浅くなりました。この2つはどちらもこの計算が答えられる範囲の中です。深いカップでは、ツボの並びが低いほうではなく高いほうで変わっていました。ただしこれも「暗くなる」ことの証拠にはなりません。先に書いたとおり、ツボの深さと聞こえる音色は別の話だからです。

疑問と照らし合わせる

「カップが深いと暗い音になる」→ 今回は確かめられず

この計算が出すのは、どの高さの音がどれだけ強く返ってくるか、という楽器側の性質だけです。実際に聞こえる音の明るさは、それに加えて唇がどんな成分の音を送り込んでいるかで決まります。唇の振動は今回のモデルに入っていません。楽器の側だけを見て「暗くなる」とは言えませんでした。

「カップの容積を変えると音程が変わる」→ 条件つき

変わります。ただし「全体が半音ぶん下がる」ような大きさではありません。基準の0.6〜1.4倍まで振って、いちばん大きいモード4で11.8セントです。振り幅を半分の0.8〜1.2倍にしても、端から端の差は音によって4.2〜11.6セントで、7つの音のうち5つは気づける目安の5セントを超えたままです。変わるのは確かですが、幅は音によってまったく違います。

「深くすると、どの音も同じだけ下がる」→ 違った

下がる向きはどの音も同じでしたが、量が揃いません。浅いカップから深いカップへ替えたとき、いちばん下がる音といちばん下がらない音で14.7セントの差がつきました。楽器全体が下がるのとは違って、音どうしの間隔そのものが変わっています。なお、このあと抜差管で全体の高さを合わせ直したときに何セント残るかは、今回は計算していません。

用語のはなし

セントは音程の細かさを表す単位です。半音を100等分したものが1セントで、人が音程の違いに気づけるのは条件にもよりますが5セントあたりからと言われています。

ツボの深さは、この記事で使っている言い方です。音響の言葉では入力インピーダンスのピークの高さと言います。マウスピース側から見て、その周波数で楽器の中の空気がどれだけ強く押し返してくるかを表す量で、外へ出ていく音の大きさそのものではありません。

カップ・スロート・バックボアは、マウスピースの中を唇側から順に並べた呼び名です。唇が当たる椀の部分がカップ、その先のいちばん細いところがスロート、そこから楽器へ向かって広がる部分がバックボアです。

この記事について

この記事は、数値シミュレーションによる検証です。この計算が答えられるのは507Hzまでで、実際に山が立つのも474Hzまででした。マウスピースの効き目が語られる、それより高い帯域には届いていません。またリムは内径を固定したままで、リムの形や唇との当たりはモデルに入っていません。カップも円錐台への単純化で、実物の内壁の曲面や底の丸みは表現していません。楽器が返す強さそのものの絶対値については、別のソフトとの突き合わせで20〜500Hzの全域で平均0.79dB・最大1.52dBの差があります。同じ実装の中どうしの比較なので差は打ち消し合いますが、目安として書き添えます。

「この説も計算してみてほしい」というものがあれば、ぜひテューバ奏者の自習室の投稿フォームから教えてください。お名前も連絡先も要りません。順番に検証して、結果が出たものから記事にします。

この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/一般社団法人LFコンサート 代表理事/テューバ奏者。広島県三次市出身。九州大学で音響設計と音楽マネジメントを学び、デザイン思考を軸に持つ。演奏する側の実感と“音の仕組み”の両面から、「誰もが音楽にたどり着ける道筋」のリデザインに取り組む。

公演・鑑賞教室のご相談、活動へのご賛同を

演奏会の企画や学校・施設向け鑑賞教室のご相談、活動へのご賛同まで、お気軽にお問い合わせください。

お問い合わせ
コラム一覧に戻る