テューバのベルには、末端近くまで細く保って最後に一気に開く「ストーブパイプ」型と、早い段階からなだらかに広がる「急拡大」型があります。ストーブパイプは音が締まり急拡大は明るく開放的、と言われます。経験則か、ベルの開き方という構造が効いているのか。音程については計算で確かめられましたが、明るさについては測れないことがわかりました。
結論
この記事で計算したのは、ベルの開き方による音程のゆがみと、高いモードまで音のツボの深さがどこまで保たれるかです。
よくある疑問 | 判定 | ひとこと |
|---|---|---|
ベルの開き方で音程が変わる | 本当 | 低い側(モード2)で34.1セント動きますが、低次と高次が逆向きに動くため楽器全体が一方向にずれるわけではありません |
ベルの開き方で音の明るさが変わる | 今回は確かめられず | 高次側(モード9以降)の山の位置は動きませんが、最初に10dB沈む地点だけが2.1モード分前倒しになります。外へ出ていく音は測っておらず、明るさの判定はできません |
開き方を変えれば音程の並びを直せる | 違った | 低次だけ過剰に動くので、この指数ひとつでは音程列は揃いません |
検証したこと
計算機の中に置いたのは、下の形のB♭テューバです。実物の4/4サイズを想定して組んだ架空の基準モデルで、このシリーズの記事はすべて同じ楽器を使っています。

- 管の全長:まっすぐ伸ばすと約5.6m
- ボア(バルブ区間の内径):19mm。実物の4/4サイズと同じ寸法です
- ベル径:400mm。実機の4/4(概ね420〜480mm)よりやや小さめです
- 基準:A4=442Hz、管の中は25℃
この楽器のベルの開き方だけを4段階に取り替えました。開き方の急さを示す数値を「フレア指数」と呼びます。
- フレア指数:0.5(ストーブパイプ寄り)/0.686(基準)/0.9(急)/1.1(急拡大)の4段階
- 固定したもの:ベルの長さ813mm・入口の太さ(径約107mm)・ベル径400mm、他の管体すべて
- 再調律なし:フレア指数を替えた後は調律し直していません
- 見た音域:音程はモード2〜8、高い音の残り方は山の並び全体(最高峰はモード9以降で見た)
フレア指数とは何か
ベルの断面が喉から先端に向かって広がる急さを数値にしたのがフレア指数です。小さいほど末端近くまで細く保ち最後に一気に開く形、大きいほど早い段階からなだらかに広がる形になります。

喉とベル径の両端はそろえ、違うのは途中の広がり方のカーブだけです。
検証結果
基準(フレア指数0.686)に対する音程のずれを、モード2〜8で見ました(単位はセント)。
フレア指数 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
0.5(ストーブパイプ寄り) | −16.8 | −22.4 | −8.4 | −8.3 | −2.0 | +3.0 | +6.6 |
0.686(基準) | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
0.9(急) | +11.0 | +15.3 | +5.8 | +4.8 | −1.4 | −4.7 | −7.7 |
1.1(急拡大) | +17.3 | +24.3 | +9.2 | +7.1 | −3.7 | −8.9 | −13.4 |
ストーブパイプ寄り(0.5)から急拡大(1.1)まで振ると、モード2は34.1セント、モード8は20.0セント動きますが向きは逆で、境目はモード6付近です。

もうひとつ見たのは、高い音の残り方です。高次側(モード9以降)の山の位置は、フレア指数を振っても常にモード10で変わりません(モード10での高さの差は2dB以内)。ベル形状にほぼ左右されないモード1を基準に、山の高さが最初に10dB沈む地点は次のとおりです。
フレア指数 | 最初に10dB沈む地点 | 周波数 |
|---|---|---|
0.5 | モード7.7 | 227Hz |
0.686(基準) | モード6.0 | 175Hz |
0.9 | モード5.7 | 168Hz |
1.1 | モード5.6 | 163Hz |
フレア指数0.5から1.1まで振ると、最初に10dB沈む地点は2.1モード分(約63Hz)前倒しになります。ただしこの幅は基準の深さ次第で、5dBならほぼ消え(0.04モード分)、12dBなら4.4モード分に広がります。2.1は基準を10dBに置いたときの値です。向きだけは3〜15dBのどの基準でも変わりませんでした。

疑問と照らし合わせる
「開き方で音程が変わる」→ 本当
フレア指数を0.5から1.1まで振ると低い音(モード2)は34.1セント動き、知覚閾値5セントを超えます。ただし低次と高次が逆向きに動くため、楽器全体が一方向にずれるわけではありません。
「開き方で明るさが変わる」→ 今回は確かめられず
外へ出ていく音そのものは計算しておらず、明るさが変わるかどうかはこの計算では決まりません。測ったのは共鳴(インピーダンス)だけです。高次側(モード9以降)の山の位置(モード10)は動かず、動くのは最初に10dB沈む地点でした(急拡大ほど前倒し・2.1モード分)。急拡大寄りほどカットオフ周波数が下がるぶん、より低い周波数の成分から反射されにくくなりはじめる経路とはつじつまが合いますが、これも共鳴の話にとどまります。
「開き方を変えれば音程の並びを直せる」→ 違った
モード2の感度はモード8の約1.7倍あります。フレア指数を動かすと低次側だけが過剰に動くため、この指数だけでは音程列全体は揃いません。
用語のはなし
フレア指数は、ベルの断面が喉から先端に向かってどう広がるかを表す数値です。mmのような直接測れる長さではなく、設計で使う抽象的なパラメータです。
山の並びは、モードごとの音のツボの深さ(入力インピーダンスのピークの高さ)を番号順に並べたときの、全体の高さの推移です。
「10dB沈む地点」は、モード1を基準に、山の高さが最初に10dB低くなる地点を線形補間で求めたものです。山の高さは戻ることもあるため、「最初に」下回った地点だけを見ています。連続スペクトルの厳密な境目ではなく、山だけを見た目安です。山が境目のすぐ近くにあると、わずかな違いで地点が1モード以上飛びます。基準の0.686はモード6が境目の0.1dB下にあり、とくに境目に近い行です。
ベルのカットオフ周波数は、それより高い成分が管内で反射されにくくなる境目の周波数です。同じ長さ・同じベル径でも、喉のほうから早く広がり始める形ほど低く、末端近くまで細く保って最後に一気に開く形ほど高くなります。
この記事について
この記事は、気柱共鳴のみを扱う計算モデルの検証です。動かしたのはフレア指数だけで他は固定・再調律なし、音色と実際に外へ出ていく音のスペクトルは対象外です。4段階のフレア指数も、実在のストーブパイプ型・急拡大型を実測して当てたものではなく、基準からどれだけ離すと形が違って見えるかという探索的な幅であり、実際の楽器で同じ結果になるとは言えません。
「この説も計算してみてほしい」というものがあれば、ぜひテューバ奏者の自習室の投稿フォームから教えてください。お名前も連絡先も要りません。順番に検証して、結果が出たものから記事にします。
この記事を書いた人
小林悠真(こばやし・ゆうま)/一般社団法人LFコンサート 代表理事/テューバ奏者。広島県三次市出身。九州大学で音響設計と音楽マネジメントを学び、デザイン思考を軸に持つ。演奏する側の実感と“音の仕組み”の両面から、「誰もが音楽にたどり着ける道筋」のリデザインに取り組む。
