テューバに凹み(デント)ができたとき、現場の反応は真っ二つに割れます。「見た目だけの問題」という楽観論と、「小さな凹みでもすぐ修理に出すべき」という悲観論です。どちらも、その凹みが管のどこにあるかを区別せずに語られます。場所で効き方が変わるのか、計算で確かめました。
結論
測ったのは、同じ楽器の凹みあり/なしでモードの周波数がどれだけ動くか(音程のズレ・単位はセント)です。
よくある疑問 | 判定 | ひとこと |
|---|---|---|
凹みは見た目だけの問題 | 条件つき | 半径に対する割合で深さ10%なら175通り全部が知覚の目安5セント未満、25%で4分の1が超えます。全周一様の近似なので、片側だけの実機デントならセントの動きは約10分の1です |
小さな凹みでもすぐ修理すべき | 条件つき | 深さ12.5%までは175通り全部が5セント未満。最初に超えるのは15%弱の0.72mの1か所で、20%で5か所、25%で24か所に広がります(いずれも全周一様の近似での話です) |
太い場所(ベル)なら平気 | 条件つき | 同じ深さ(mm)で比べれば、音程に関する限り本当。効くのは太さではなく、その場所の半径に対する深さの割合です |
凹みの場所で効き方が変わる | 本当 | 半径に対して同じ深さ25%でも、モード4だけで+4.99セントから−10.65セントまで符号ごと反転します |
検証したこと
計算機の中に置いたのは、下の形のB♭テューバです。実物の4/4サイズを想定した架空の基準モデルで、このシリーズ共通の楽器です。

- 管の全長:まっすぐ伸ばすと約5.6m
- ボア(バルブ区間の内径):19mm(実物の4/4と同じ)
- ベル径:400mm(実機の4/4=420〜480mmよりやや小さめ)
- 基準:A4=442Hz、管の中は25℃
凹みは、ある位置を中心に短い区間だけ管の半径を細くする形で表しました。比べる相手は、凹みだけを取り除いた同じ楽器です。
- 振った量①・位置:リードパイプ上の0.3mからベル途中の5.3mまで25点(刻み約0.21m)
- 振った量②・深さ:半径に対する割合で10%から27.5%まで2.5ポイント刻みと40%、絶対値で1mm・2mm・4mm
- 固定したもの:凹みの区間の長さ(約27〜34mm。計算格子の都合で位置により変わります)
- 計算の刻み:管の分割は5mm、凹みの当てはめは10mm格子
- 見た音域:モード2〜8(25位置×7モード=175通り)。モード1(ペダル域の山)は、他の山の調和列から約200セント外れていて鳴る音程を直接決めないので外しています
「深さ」は半径の話で、断面積はもっと減ります
深さ25%とは、その場所の半径が4分の3になることです。息が通る断面積は半径の2乗で効くので、全周が一様に25%へこめば断面積は43.75%も減ります。実際の凹みは片側だけがへこむ非対称な変形なので、同じ深さでも断面積の減りは約7%にとどまります。なお深さ25%の実寸は場所でまるで違い、0.72m(半径8.40mm)では2.1mm、ベル側では14.7〜23.7mmの全周くびれで、板金として現実的な変形ではありません。
検証結果
深さ25%を固定して位置を25点振ると、24点が知覚の目安5セントを超えました。届かないのは1.97mの1点(−4.87セント)だけです。ただし超えるのは各位置で7つのモードのうち1〜3つ(中央値2つ)で、その場所の音が総崩れになるわけではありません。最悪は0.72mのモード4で−10.65セント、同じ位置でもモード2は+0.10セントとほぼ無風でした。
ベル側の3点(4.88/5.09/5.30m)の最大は6.78セントです。なお「届かない1点」はモード2〜8に限った話です。除外したモード1まで数えると、この1.97mも5.85セント動いて目安を超えます。図の「唯一届かなかった位置」は、モード2〜8という土俵の上での話だと読んでください。

最も敏感だった0.72mで深さを振ると、次のようになりました。右端は位置25点すべてを数えた5セント超の通り数です。
深さ | 0.72mのモード4 | 175通りのうち5セント超 |
|---|---|---|
10% | −3.15セント | 0通り(0%) |
15% | −5.19セント | 1通り(1か所) |
20% | −7.66セント | 5通り(5か所) |
25% | −10.65セント | 44通り(25.1%) |
40% | −24.80セント | 101通り(57.7%) |
伸び方を対数で回帰すると傾きは約1.47(10/25/40%の3点で取った値)で、深さに比例するのでも2乗で効くのでもない中間の増え方でした。ただし単一のべき乗ではありません。
刻みを2.5ポイントに細かくすると局所の傾きは単調に動き、10%付近では1.2、40%付近では1.8です。3点の当てはめは、間を埋めた点を最大10%外します。それでも「比例でも2乗でもない中間」という向きは全区間で保たれます(局所の傾きは1.2〜1.85の間)。なお0.72m・深さ10〜40%という一つの条件での記述で、他の位置では測っていません。
この「44通り」は線すれすれのセルで決まっています。3通りは5セントの線から0.04セント以内で、いちばん薄い5.09mのモード2は0.003セントしか出ていません。深さを2.5ポイント振ると44通りは28〜59通り、位置は21〜25か所に動きます。数え方の境界です。
ここまでは深さを半径への割合で揃えており、太さが効くかどうかは構造上わかりません。深さをmmで揃え直すと結果は一変しました。深さ2mmでは、リードパイプ側(0.30〜0.93mの4点)が7.04〜9.88セント動くのに対し、ベル側(4.88〜5.30mの3点)は0.36〜0.61セントしか動きません。両側とも最も動いた点どうしで比べて約16倍の差です。

疑問と照らし合わせる
「見た目だけの問題」→ 条件つき。深さで切れる
「見た目だけ」と言い切れるのは浅いうちだけで、深さ25%では44通り、40%では101通りが5セントを超えます。ただしこれは全周が一様にへこむ近似での話で、片側だけの実機デントに直すと桁がひとつ落ちます。
「小さくてもすぐ修理すべき」→ 条件つき。効き始めるのは深さ15%弱から
半径への割合で最初に5セントを超えるのは15%弱で、最も敏感な0.72mのモード4が1つだけです。20%で5か所、22.5%で21か所と急に広がります。深さをmmで揃えると、1mmは25点すべてが届かず、2mmで9通り・5か所が超えます(薄い方は1.34mのモード7が線から0.11セント、0.51mのモード6が0.16セント)。
なお本モデルは全周が均一にへこむ想定で、同じ深さの片側だけの凹みと比べると断面積の減りで約6倍、セントに換算すると約10倍(10.65セント対1.04セント)大きく見積もっています。この「約10分の1」は、片側の凹みを弦で切り取った円形のかけらとみなす理想化に依存します。板金が内側へ折れ込む実機なら断面積の減りはこの倍になりうるので、面積を2倍に取り直して計算し直しました。それでも最も敏感な位置で2.26セントで、5セントの目安には届きません。
「太い場所なら平気」→ 条件つき。太さではなく割合で決まります
半径への割合で揃えるかぎりベル側も他の位置と大差なく、mmで揃え直して初めて差が開きます。効くのは太さの絶対値ではなく、半径に対する深さの割合です。深さ2mmは0.72m(半径8.40mm)では半径の23.8%ですが、4.88m(半径58.61mm)ではわずか3.4%にすぎません。ただし比例はせず、半径の比が約7倍なのにセントの比は約16倍でした。
「場所で効き方が変わる」→ 本当
モード4だけを見ても、位置によって上ずる場所と下がる場所に分かれました。同じ凹みでも「この音だけ極端に動く」場所と「この音はほぼ無風」な場所が入れ替わります。凹みは、どこにあるか抜きには語れません。
用語のはなし
セントは半音を100等分した音程の単位で、1オクターブが1200セントです。人が違いに気づけるのは、条件にもよりますがおおむね5セントからと言われています。ここで測っているのは管が用意する音程で、実際に出る音程は唇である程度寄せられます。この記事の5セントは「そのまま吹いたら気づかれる量」であって、「直せない量」ではありません。
モードは管の中で音が共鳴するパターンで、番号が増えるほど高い音域に対応します。管の中には圧力が大きく波打つ場所(腹)とほとんど動かない場所(節)があり、その並びはモードごとに違います。凹みが腹に当たるか節に当たるかで効き方が変わるのが、今回いちばん効いていた仕組みです。
この記事について
この記事は数値シミュレーションによる検証で、実際の楽器を測定したものではありません。凹みは全周を均一に細くする近似なので、実機の片側デントより大きめに出ます。絶対値4mmは0.30mで半径の56.3%に達し、計算した範囲(深さ40%まで)の外なので参考値です。
位置は25点の格子探索なので、真に最悪の位置は点と点の間にあるかもしれません。ベルの縁を含むフレアの外側(5.3mから管の先端5.57mまで)は探索範囲に入っておらず、一般にぶつけやすいのはこの帯だと言われます。壁の応力・見た目・売却価値、そして音色や吹奏感も対象外で、測ったのは音程だけです。
凹みの入り口と出口にできる段差には、内側の実効長の補正を入れていません。この補正は一般に管を少し長く見せる向きに効くので、実際のズレはここで出した値よりやや大きい側に寄る可能性があります。補正を入れた計算はまだしておらず、どれだけ寄るかは未検証です。
「この説も計算してみてほしい」というものがあれば、ぜひテューバ奏者の自習室の投稿フォームから教えてください。お名前も連絡先も要りません。順番に検証して、結果が出たものから記事にします。
この記事を書いた人
小林悠真(こばやし・ゆうま)/一般社団法人LFコンサート 代表理事/テューバ奏者。広島県三次市出身。九州大学で音響設計と音楽マネジメントを学び、デザイン思考を軸に持つ。演奏する側の実感と“音の仕組み”の両面から、「誰もが音楽にたどり着ける道筋」のリデザインに取り組む。
