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コラムテューバ奏者の自習室

バルブ区間を太くすると吹きやすくなるのか

バルブ区間を太くすると吹きやすくなるのか

楽器を選んでいると、“バルブのボアが太いほうが息が通る”という話に必ず出会います。吹き比べて軽く感じる個体はあって、それをボアの太さで説明されると納得してしまいます。経験則なのか、管の形から出てくることなのか。計算で確かめました。

結論

測ったのは2つです。音のツボの深さ(=息を吹き込む側から見た共鳴の山の高さ)と、息の通りにくさ(=マウスピースからバルブ出口までに失われる圧力)。“吹きやすさ”という一言は、計算の上ではこの2つに割れます。

よくある疑問

判定

ひとこと

バルブ区間を太くすると息が通りやすくなる

条件つき

バルブ区間の中だけなら通りやすくなる。ただしそこは全体の1〜2割しか占めず、段階的に太くした②では合計で−2.0%にとどまる。③は合計−11.0%だが、これは音程を戻す過程でマウスパイプが14.5%短くなった効果を含んだ数字で、太さだけの差ではない

一段で太くすると段差が息を邪魔する

違った

段差そのものの損失は③の合計の約0.3%。“段差を避けるため”という理屈は立たない

太くするとツボが変わる

条件つき

動くが、深くなる音と浅くなる音が混ざる。単調な変化ではない。②③とも“音程を戻すための作り直し”が混ざった結果

太くすると吹奏感が軽くなる

今回は確かめられず

上の2つは唇を止めた静的な物差し。発音のしやすさそのものは測れていない

検証したこと

計算機の中に置いたのは、下の形のB♭テューバです。実物の4/4サイズを想定した架空の基準モデルで、このシリーズの記事はすべて同じ楽器を使っています。

計算に使ったB♭テューバの断面図。マウスピース・リードパイプ・バルブ区間・枝管・ベルの位置と、全長約5.6m、ボア19mm、ベル径400mmを示している
  • 管の全長:まっすぐ伸ばすと約5.6m
  • ボア(バルブ区間の内径):19mm。実物の4/4サイズと同じ寸法です
  • ベル径:400mm。実機の4/4(概ね420〜480mm)よりやや小さめです
  • 基準:A4=442Hz、管の中は25℃

このバルブ区間(長さ0.80m)だけを差し替えました。

  • 振った量:バルブ区間の内径。①基準=19mmのまま ②段階的に太く=19mmから21mmへ緩やかに広げる ③一段で太く=全区間21mm(マウスパイプ終端の19mmとの間に段差ができる)
  • 固定したもの:マウスピース、マウスパイプ終端の19mm、ベル開口径400mm
  • 音程:②③は倍音列に合わせ直し。そのため枝管とベルの長さ・太さは動いています(ベルの喉の直径は②で+18.9%、③で−21.8%)
  • 見た音域:モード2〜8(B♭1からB♭3)
  • 息の量:毎秒0.2Lと0.5Lの2通り

合わせ直すと、比べられるものが残る

太さを変えると音程がずれます。そのまま比べると“音程が動いた効果”が混ざるので、②③は合わせ直しました。結果、3通りとも倍音列からのズレは最大1.7セント。気づける目安の5セントを大きく下回るので、以降の差は音程以外のものです。

ただし合わせ直しは、太さ以外の場所も動かします。③はその過程でマウスパイプが14.5%短くなりました。息の通りにくさ(Pa)にはマウスパイプの長さが直接効くので、この量にかぎっては太さそのものの効きを②の数字で読めます(②のマウスパイプは−0.7%しか動いていません)。

一方、このあと出てくる音のツボの深さ(dB)には、その逃げ道がありません。②③とも枝管とベルの太さ・長さが動いており、②のベル喉径は+18.9%、③は−21.8%です。dBの差は太さの変更と“音程を戻すための他の部分の作り直し”がセットになった結果として読んでください。

検証結果

まず息の通りにくさです。息の量が多いほう(毎秒0.5L)を区間ごとに分けます。

区間

①基準

②段階的に太く

③一段で太く

マウスピース(スロート+バックボア)

7.56 Pa

7.56 Pa

7.56 Pa

マウスパイプ

11.16 Pa

11.08 Pa

9.53 Pa

バルブ区間(段差の損失を含む)

2.29 Pa

1.94 Pa

1.59 Pa

合計

21.00 Pa

20.58 Pa

18.69 Pa

毎秒0.5Lの息に対する圧力の落ちを、マウスピース・マウスパイプ・バルブ区間の3区間に分けて積み上げた棒グラフ。基準・段階的に太く・一段で太くの3本を並べており、どの本でもバルブ区間は全体の1割ほどで、大半をマウスピースとマウスパイプが占めている

バルブ区間だけを取り出せば、②で−15.2%、③で−30.3%と狙いどおり通りやすくなります。ところがバルブ区間は合計の10.9%しかありません(息が弱い毎秒0.2Lでも20.1%)。残る89.1%は、太さを振っていないマウスピースとマウスパイプです(③ではそのマウスパイプも、音程を戻す過程で短くなっています)。

だから合計では②は−2.0%止まりです(③は−11.0%ですが、これは太さ以外の変化も含んだ数字です)。③の段差で生まれる損失は0.06 Pa、③の合計の約0.3%でした。

次にツボの深さです。基準①との差で、プラスが深く、マイナスが浅くなった向きです。

モード(音)

②段階的に太く

③一段で太く

2(B♭1)

+1.5 dB

+0.5 dB

3(F2)

+0.3 dB

+1.1 dB

4(B♭2)

−0.2 dB

+0.2 dB

5(D3)

−0.2 dB

+2.1 dB

6(F3)

−0.6 dB

−0.1 dB

7(A♭3)

−0.3 dB

−1.8 dB

8(B♭3)

−0.2 dB

+1.3 dB

この表の②③は、どちらも太さの変更と“音程を戻すための他の部分の作り直し”がセットになった結果です。最大の+2.1 dBは、バルブ区間を1mmも太くせずに作り直しの側だけを当てた計算でも出ます。ここから“太さそのものの効き”だけを取り出すことはできません。

モード2から8までの音のツボの深さが基準からどれだけ動いたかを示した棒グラフ。段階的に太くした場合と一段で太くした場合を並べており、プラスとマイナスが混ざる。差と呼べる目安1デシベルの線を超えるのは14本中5本で、最大は一段で太くしたモード5の+2.1デシベル。どちらも太さの変更と音程を戻すための作り直しがセットになった結果

14マスのうち目安の1 dBを超えたのは5マス、最大は③のモード5(D3)で+2.1 dBです。残る9マスは1 dB未満で、この物差しの上では差と呼べません。超えた5マスのうち③のF2(+1.1 dB)は線から8.2%しか出ておらず、すれすれです。

なおこの「5マス」という数え方と、どのマスが最大になるかは前提の置き方で動きます(放射の扱いや、音程を戻すときの作り直し方を変えると4マスになり、最大のマスも入れ替わります)。向きがそろわないという結論は変わりません。しかも符号がそろわず、②は7つのうち深くなるのがB♭1とF2の2つだけ、③は逆に5つが深くなり、浅くなるのはF3とA♭3です。

疑問と照らし合わせる

「息が通りやすくなる」→ 条件つき。バルブ区間の中では本当

ここだけ切り出せば通説どおりです。問題は外側で、効く相手が全体の1割では②の戻りは−2.0%です。いちばん狭いのはマウスピースのスロートで、流れが最初に乱れるのもここでした。

「段差が息を邪魔する」→ 違った

③には19mmから21mmへ一気に広がる段差があります。そこで失われる圧力は、息が強いほうでも0.06 Pa。段階的に広げる作りを“段差を避けるため”と説明するなら、平均の流れの側にその根拠はありませんでした。

「ツボが変わる」→ 条件つき。ただし向きがそろわない

“太くすれば深くなる”も“太くすると浅くて当たりにくい”も、この計算では支持されません。向きがモードごとに入れ替わるうえ、②③とも太さ以外の作り直しが混ざっています。

「吹奏感が軽くなる」→ 今回は確かめられず

使った2つの物差しは、どちらも唇を止めたまま測る静的な近似でした。息を入れた瞬間の発音のしやすさや、鳴り出してからの抵抗感そのものはどちらでもありません。唇と気柱が引き込み合う動きはモデルに入っていないので、2つの物差しが小さく出たことを“吹奏感は変わらない”と読み替えることはできません。

用語のはなし

音のツボの深さは、ここでは入力インピーダンスのピークの高さを指します。管は特定の高さでよく共鳴し、その山が高いほど唇が乗りやすい——という意味での“深さ”です。放射される音量とは別のもので、山が高いからといって遠くまで飛ぶわけではありません。単位のデシベル(dB)は比べるための目盛です。この記事で目安に使う1 dBは音の大きさの聞き分けやすさから借りた線で、ツボの深さそのものの聞き分けの限界が測られているわけではありません。

パスカル(Pa)は圧力の単位です。奏者が口の中に作る圧力はこの21 Paよりずっと大きい桁(1000 Pa=1キロパスカル単位)と言われますが、これは目安で、結論の根拠にはしていません。

層流と乱流。細い管をゆっくり流れる空気は層をなして進み(層流)、速くなるとかき混ざります(乱流)。毎秒0.5Lで層流のままなのはバルブ区間だけで、その手前のマウスピースとマウスパイプはすでに乱流域に入っています(マウスパイプは長さの約8割)。流れが荒れるのは、太さを変えた場所ではなくその手前です。ただしこの帯はちょうど層流と乱流の境目にあたり、層流の式も乱流の式も本来の適用条件を厳密には満たしていません。

この記事について

この記事は数値シミュレーションによる検証で、実際の楽器を測定したものではありません。バルブそのもの——穴の形やケーシングの中の曲がり——はモデルに入っていないので、実機のバルブ区間はこの計算より損失が大きい可能性が高いです。息は平均の流れとして扱っており、唇と気柱の連成、放射される音量や音色は測っていません。表の「バルブ区間」には段差の損失も含めてあり、②の1.94 Paにも同じ0.06 Paが入っています。緩やかな広がりにも一段の段差と同じ式を当てる簡略化なので、②の損失はやや大きめに見積もられている可能性があります。

「この説も計算してみてほしい」というものがあれば、ぜひテューバ奏者の自習室の投稿フォームから教えてください。お名前も連絡先も要りません。順番に検証して、結果が出たものから記事にします。

この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/一般社団法人LFコンサート 代表理事/テューバ奏者。広島県三次市出身。九州大学で音響設計と音楽マネジメントを学び、デザイン思考を軸に持つ。演奏する側の実感と“音の仕組み”の両面から、「誰もが音楽にたどり着ける道筋」のリデザインに取り組む。

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