ビューグルとトランペットは、どちらも唇を震わせて鳴らす、ラッパの形をした金管楽器です。一日の終わりを告げる軍隊の信号は、どちらの楽器でも吹かれることがあります。
それでも、2つの楽器は作りの考え方が違います。違いの核心は、ビューグルにはバルブが無く、管の長さを一切変えずに唇と息だけで音を選ぶという点にあります。
ビューグルとトランペットの違い:まず1分だけ
ビューグルは、バルブを持たない小型の金管楽器で、日本語では信号ラッパとも呼ばれます。音の高さを変える装置が無いので、出せる音はその管の自然倍音に限られます。管は円錐形に広がっていきます。
トランペットは、管の大部分が同じ太さの円筒で、ふつう3本のバルブを持ちます。バルブで管の長さを切り替えるので、倍音の並びそのものを何通りにもずらし、半音ずつすべての音を出せます。
並べて見ると、違いは“音を選ぶ方法”です
比べる点 | ビューグル | トランペット |
|---|---|---|
バルブ | 無い | ふつう3本 |
出せる音 | その管の自然倍音だけ | 半音階のすべて |
管の形 | 円錐形に広がる | 大部分が円筒 |
よく使われる調 | B♭・E♭。アメリカのドラム・コーは伝統的にG(DCIの競技では2000年からほかの調も使えるようになった) | B♭が一般的 |
主な活躍の場 | 軍隊や式典の信号、ドラム・コー | オーケストラ、吹奏楽、ジャズ |
管の形の違いは、トランペットとほかの金管を比べるときにも出てきます。円筒の管と円錐の管がどう音色を分けるかは、トランペットとコルネットを比べた記事で扱っています。
違いが生まれる理由:信号は、倍音だけで書かれている
ビューグルにバルブが要らないのは、吹く曲の側がそれに合わせて作られているからです。英語版ウィキペディアは、標準的な信号ラッパの譜面は「ビューグル音階」の5つの音で書かれる、と説明しています。日本語版も、ふつう使われる音を低いほうから「ド・ソ・ド・ミ・ソ・シ♭・ド」の7音と挙げ、作曲ではそれより高い音はほとんど使わないとしています。
この並びは、管1本の倍音列そのものです。アメリカ軍の葬送で吹かれる「タップス」は、ドとミとソだけでできていて、使うのは第3〜第6倍音です。英語版によれば、正式な演奏は1本のビューグルかトランペットで行われます。トランペットもバルブを押さずに吹けば、同じ倍音列の音が並ぶからです。
音の高さを唇と息だけで選ぶので、奏者は倍音の“段”を狙って当てる技術を磨くことになります。その段の間隔が上ほど詰まっていく仕組みは、倍音列から見た記事で説明しています。
ビューグルの時代:角笛から、バルブの時代へ
「ビューグル」という名前は、ラテン語の小さな雄牛を指す言葉から来ており、牛の角で作った角笛がその起こりとされます。
年 | 場所 | できごと |
|---|---|---|
1810年 | イギリス | ジョセフ・ハリデイがロンドンでキー付きビューグルの特許を取る。その後、広く使われるようになる |
1820年代〜30年代 | ドイツ | バルブ付きのビューグルが作られ、のちにフリューゲルホルンと呼ばれる楽器につながる |
1900年代初頭 | アメリカ | 軍が楽器を手放したことで、市民のドラム・コーが生まれ始める |
現在 | 日本 | 自衛隊が、起床や国旗掲揚などの日課号音と式典で信号ラッパを使う |
キー付きビューグルは、バルブ付きのコルネットが現れると衰えていきました。バルブ付きのビューグルの流れは、いまのフリューゲルホルンに引き継がれています。その違いはフリューゲルホルンとトランペットを比べた記事で書きました。
トランペットのほうも、もとはバルブの無い楽器でした。英語版ウィキペディアは、トランペットは1795年ごろまでバルブの無い楽器だったとし、日本語版も、バルブが発明される1815年ごろまでは円筒の管にベルが付いただけの楽器だったと書いています。17世紀には、その高い音域が「クラリーノ」と呼ばれていました。高い音域ほど倍音が詰まって並ぶので、バルブが無くても音を続けて並べやすくなります。同じ倍音だけの楽器でも、低い倍音で合図を吹くビューグルと、高い倍音まで使うバロックのトランペットとは、使う場所が違っていたと見ることができます。
一方で、バルブの無い元の形のビューグルも消えませんでした。戦場での合図としては、戦術の変化と無線の発達で使われなくなりましたが、日々の時間を告げる号音と式典の音として残っています。
どんな場面で吹かれるのか
いまのビューグルの役目は、多くが慣習と儀礼です。日本では自衛隊の栄誉礼やパレードで吹かれ、地域の祭りでも見られます。浜松まつりでは、子どもたちのラッパ隊が凧揚げの合戦を盛り立てます。消防団では、A♭管の信号ラッパが一般的とされています。
イギリスでも、ライフル連隊がビューグルを式典と象徴のために残しています。英語版ウィキペディアの「金管楽器」の項も、バルブの無い楽器は、当時の演奏の再現と一部の式典のために今も吹かれる、と書いています。
一段深く:信号ラッパの「シ♭」は、ピアノより低い
音響設計の目で倍音列を見ると、ビューグルの7音の中には、ピアノの音階からずれる音が1つ含まれています。ドを第2倍音とすると、ソ・ド・ミ・ソと続き、「シ♭」は第7倍音にあたります。
第7倍音は、すぐ下の第4倍音のドとの比が7対4です。計算すると約969セントで、ピアノの平均律の短7度(1000セント)より約31セント低くなります。半音の3分の1近い差で、トランペットならバルブで別の管を選べますが、ビューグルにはその逃げ道がありません。信号の譜面がこの音をあまり使わないのも、うなずけます(ここは計算からの私の見方です)。
よくある質問
Q. トランペットでビューグルの信号を吹けますか
A. 吹けます。バルブを押さずに吹けば、トランペットも自然倍音の音だけが並びます。アメリカの「タップス」も、正式な演奏は1本のビューグルかトランペットとされています。
Q. ビューグルはいくつの音が出せるのですか
A. 管の自然倍音の数だけです。標準的な信号は5つの音で書かれ、ふつう使われる範囲は7音ほどです。上手な奏者はさらに高い倍音も出せますが、信号の曲ではほとんど使われません。
まとめ
ビューグルとトランペットは、どちらも唇で鳴らすラッパですが、ビューグルはバルブを持たず、管1本の倍音だけで音を選びます。その制約に合わせて信号の曲が作られたので、仕組みが単純なまま、時刻を告げる音や式典の音として今も残っています。次に式典でラッパを聴くときは、使われている音がドとミとソだけかどうかを確かめてみてください。
この記事を書いた人
小林悠真(こばやし・ゆうま)/一般社団法人LFコンサート 代表理事/テューバ奏者。広島県三次市出身。九州大学で音響設計と音楽マネジメントを学び、デザイン思考を軸に持つ。演奏する側の実感と“音の仕組み”の両面から、「誰もが音楽にたどり着ける道筋」のリデザインに取り組む。
