金管楽器のミュートは、ベルをふさいで音を小さくする栓ではありません。多くのミュートは、音の成分のうち低い部分を抑えて高い部分を目立たせることで、音色そのものを変える道具です。栓をしているように見えるのに音が消えないのは、そのためです。
演奏会で、トランペットやトロンボーンの奏者が、ベルに小さな筒のようなものを差し込む場面を見たことはありませんか。そのあと聞こえてくる音は、小さくなるというより、細く尖った音に変わります。音が消えずに、性格だけが変わるのです。
私はテューバ奏者で、ベルの大きな楽器にミュートを入れる側にもいます。その立場から、ミュートが何をしているのかをお話しします。
ミュートは何をしているのか:まず1分だけ
ミュートとは、楽器の音色を変えるために、特定の倍音(音を構成する成分)の強さを弱め、別の倍音を強める道具のことです。よくある誤解は、ミュートは音を小さくするだけの道具だ、という考えです。この誤解があてはまるのは、練習用のミュートだけだとされています。
ベルの出口をほぼふさぐので、低い成分は弱まります。いっぽう、ミュートの内部の共鳴で、高い成分が強まります。ミュートの種類によって、どの成分をどれだけ弱めたり強めたりするかが変わります。
主なミュートの種類と、音の変わり方
種類 | 形・使い方 | 音の変わり方 |
|---|---|---|
ストレート | 先を閉じた円錐を切り取った形で、ベルに差し込む | 高い成分を通す高域通過フィルターのように働き、鋭く張った音になる。トランペットでは約1800Hz以上を通す |
カップ | ベルに取り付ける | ストレートより抑えた、暗い音 |
ハーモン(ワウワウ) | コルクで、ミュートの周囲の空気の流れを完全にふさぐ | ストレートやカップと違い、音はミュートの内部だけを通って出る |
プランジャー | 差し込まず、ベルの前で手に持って使う | ベルの前に置く位置で、音色を作る |
バケット | 吸音材が入っている | 音を弱める |
プラクティス | 練習用 | 音量を下げる。周りに迷惑をかけずに練習することが目的 |
この表で大事なのは、音量を下げることだけが目的なのは、練習用のミュートだけだという点です。ほかのミュートは、音色を変えるために使います。材質はファイバー、プラスチック、厚紙、金属などさまざまです。
音が消えない理由:音を止めずに、成分を選んでいる
ミュートを入れても音が消えないのは、ベルを完全にはふさがず、音の通り道が残っているからです。ハーモンミュートはミュートの周囲の空気の流れを完全にふさぎ、音はミュートの内部を通って出ます。ストレートやカップでは、ミュートの周囲にも空気が通ります。
音響設計の目で見ると、ミュートは“フィルター”です。ベルが出口を絞るので低い成分は抜けにくくなり、ミュートの内側の共鳴が高い成分を強調します。トランペットのストレートミュートが、鋭くてよく通る音になるのはそのためです。
一段深く:テューバのミュートと、ホルンの“手”
テューバで日常的に使われるミュートは、ストレートだけだとされます。ベルが大きいので、ミュートも大きく、本番では置き場所と入れるタイミングを段取りに入れておく必要があります。ベルの大きさと音量の関係は、ベルが大きいほど音量が出る、は本当かで扱っています。
ホルンは少し事情が違います。ホルンの奏者は、ミュートの代わりに手でベルをふさいで音色を変えることが多く、この技法をストップと呼びます。ストップをすると、音程がおよそ半音高く聞こえます。なぜ上がるのかは、管が短くなったとみる説と、共鳴が下がって上の倍音に移るとみる説に分かれています。ストップは音色だけでなく音程も動くので、奏者はそのぶんを補って吹きます。
ホルンの吹き方はホルンはなぜ「難しい楽器」と言われるのかで書きました。
バロック時代のミュートは、差し込むと音程が半音かそれ以上高くなったとされます。ミュートが音色だけでなく音程にも関わる道具だったことが分かります。金管楽器の形と音色の関係は、トランペットとコルネットの違いでも取り上げています。
よくある質問
Q. ミュートは、音量を下げるためのものですか
A. 音量を下げることだけが目的なのは、練習用のミュートです。ほかのミュートは、音色を変えるために使います。
Q. ミュートはどんな素材でできていますか
A. ファイバー、プラスチック、厚紙、金属などがあります。種類と目的に合わせて、素材と形が選ばれます。
Q. テューバでもミュートを使いますか
A. 使います。日常的に使われるのはストレートミュートだけだとされています。
まとめ
ミュートは、ベルに栓をする道具ではなく、音の成分を選ぶフィルターです。多くのミュートは、低い成分を抑えて、高い成分を目立たせることで、音が消えずに性格だけが変わります。次に金管の音色が変わる瞬間があれば、ベルのあたりを見て、どのミュートを使っているかを探してみてください。
この記事を書いた人
小林悠真(こばやし・ゆうま)/一般社団法人LFコンサート 代表理事/テューバ奏者。広島県三次市出身。九州大学で音響設計と音楽マネジメントを学び、デザイン思考を軸に持つ。演奏する側の実感と“音の仕組み”の両面から、「誰もが音楽にたどり着ける道筋」のリデザインに取り組む。
