トロンボーンがスライドを使うのは、管の長さを連続的に変えられるからです。バルブは管をいくつかの決まった長さに切り替えますが、スライドなら、その間の長さも自由に作れます。
代表的なB♭管のテナートロンボーンでは、スライドを伸ばす位置を7つに分けて、半音ずつ音を下げていきます。この「7つのポジション」の仕組みと、バルブでは出せない音を、順に整理します。
トロンボーンのスライド:まず1分だけ
トロンボーンは、U字形の管を2本の筒に差し込んで前後に動かし、全体の管の長さを変える金管楽器です。スライドを一番手前に引いた状態が第1ポジションで、そこから1段伸ばすごとに、音が半音ずつ下がります。第7ポジションまで伸ばすと、第1ポジションより音が6半音(増4度)下がります。
スライドの管は折り返しているため、手で動かした長さの2倍だけ、管の全体が伸びます。この仕組みがあるので、腕の長さで届く範囲に、7つ分のポジションがちょうど収まっています。
7つのポジションで、どの音が出るのか
B♭管のテナートロンボーンで、倍音列の第2倍音と第3倍音を、ポジションごとに並べます。C4を真ん中のドとして読んでください。
ポジション | 第2倍音(低い側) | 第3倍音 |
|---|---|---|
第1 | B♭2 | F3 |
第2 | A2 | E3 |
第3 | A♭2 | E♭3 |
第4 | G2 | D3 |
第5 | G♭2 | D♭3 |
第6 | F2 | C3 |
第7 | E2 | B2 |
この表を見ると、第2倍音の最高音B♭2のすぐ上に、第3倍音の最低音B2が続いていることが分かります。7つのポジションがあれば、E2から上の半音階が途切れずにつながる、という設計です。金管楽器の音域一覧で示したトロンボーンの下限E2は、この第7ポジションで出る音にあたります。
ポジションの間隔が広がっていく理由
半音を一つ下げるたびに、必要な管の長さは、元の長さの約1.06倍に増えます(半音の周波数比は2の12乗根で約1.06)。管全体が長くなっていくので、1段あたりの伸ばす距離も、後ろのポジションほど大きくなります。
第7ポジションの6半音は、管の長さにして約1.41倍にあたります。この比は計算で出せますが、実際の位置は楽器や奏者によって少しずつ違うため、トロンボーン奏者は耳で位置を微調整しています。
バルブでは出せない音とは何か
スライドの強みは、ポジションの途中の長さも作れることです。トロンボーンのグリッサンドは、音の高さをなめらかにつなげていく効果です。バルブ楽器にも、抜差管の操作、バルブの半押し、唇で音の高さを動かす奏法はありますが、抜差管で切れ目なくつなげられる幅はトランペットで半音程度までで、半押しや唇では音色が変わるなどの制約があり、スライドと同じようにはいきません。また、和音の中で音がきれいに響く高さに、その場で微調整できるのも、スライドならではの利点です。
バルブの金管楽器では、2本以上のバルブを同時に押すと、音程が上ずる傾向があります。その事情は、バルブを2本以上押すと音程が上ずるのはなぜかでも扱っています。スライドは、この問題が起こらない構造だともいえます。
一段深く:低音ほど、手の届く範囲が足りなくなる
音響設計の視点で見ると、トロンボーンの設計は「管の長さを何段階に区切るか」の問題です。音が低くなるほど、半音ぶんに必要な管の長さが増えるため、腕で届く範囲に収めるには、どこかで限界が来ます。テナートロンボーンの場合は、第7ポジションがその限界です。
この限界を超えるために、バス・トロンボーンには、F管などへ切り替えるトリガー(親指で操作する切り替え装置)が付いています。F管アタッチメント付きのテナーバストロンボーンも、同じ仕組みです。切り替えると管が長くなり、同じポジションでもより低い音が出ます。
低音楽器を吹く立場から言うと、この発想はホルンやテューバの設計とも共通しています。管の長さを足して、使える倍音の隙間を埋めるという考え方です。私が吹くテューバは、4本目のバルブがその役を担っています。
よくある質問
Q. 第7ポジションまで届かない人はいますか
A. 腕が短いと届きにくく、その場合はF管のトリガーが付いた楽器を使って、遠いポジションの音を手前の位置で吹く方法があります。体格に合わせて、スライドの取っ手を延長する工夫もあります。
Q. トロンボーンは、バルブ付きもあるのですか
A. あります。バルブ・トロンボーンと呼ばれ、ジャズなどで使われています。ただしスライドに比べて、グリッサンドや音程の微調整は難しくなります。
まとめ
トロンボーンがスライドを使うのは、管の長さを連続的に変えられるからです。7つのポジションで半音階がつながり、スライドなら、ポジションの間の高さや、なめらかなグリッサンドも出せます。次にトロンボーンを聴くときは、スライドの動きを目で追いながら、音の変わり目を聴いてみてください。
この記事を書いた人
小林悠真(こばやし・ゆうま)/一般社団法人LFコンサート 代表理事/テューバ奏者。広島県三次市出身。九州大学で音響設計と音楽マネジメントを学び、デザイン思考を軸に持つ。演奏する側の実感と“音の仕組み”の両面から、「誰もが音楽にたどり着ける道筋」のリデザインに取り組む。
