マリンバとシロフォンは、木の音板を鍵盤と同じ順に並べ、マレットで叩き、音板の下に共鳴管を吊るす点まで、見た目も演奏の仕方もそっくりです。日本語ではどちらも「木琴」と呼ばれることがありますが、オーケストラでは一般に別の楽器として扱われます。
答えを先に言うと、違いの核心は音板の下側の削り方にあります。削り方で音板が出す上の成分の高さが変わり、音色の差が生まれます。音域や楽譜の書き方にも違いがあります。
マリンバとシロフォンの違い:まず1分だけ
どちらも、音板を鍵盤と同じ並びに置いた鍵盤打楽器です。音板はローズウッドなどの木か、グラスファイバーのような合成素材で作られ、音板ごとに下に共鳴管が付きます(シロフォンは、コンサート用の楽器の話です)。違いがいちばん分かりやすいのは音です。マリンバは低めで深みのある豊かな音、シロフォンはそれより高く、明るく乾いた鋭い音だとされます。
並べて見ると、違いは5つに絞れます
比べる点 | マリンバ | シロフォン |
|---|---|---|
音板の削り方 | 下側を深く削り、基音の4倍の成分を合わせる | 削りは浅めで、基音の3倍の成分を合わせる |
音色 | 深みがあり、豊か | 明るく、乾いて鋭い |
音域 | 最も一般的な楽器で A2〜C7(約4.3オクターブ) | 3オクターブ半〜4オクターブで、高い側は C8 付近まで |
楽譜の書き方 | 実音のとおりに書く | 実音より1オクターブ低く書く |
マレット | 毛糸を巻いたゴムが基本で、低音ほど柔らかいものを使う | 硬いゴム、ポリボール、アクリルなどを使う |
音域を周波数で並べると、マリンバがおよそ110〜2093Hz、シロフォンが349〜4186Hzです。重なる範囲は広いものの、マリンバは低い側へ、シロフォンは高い側へ広がっています。楽譜の書き方の違いも見落とせません。シロフォンは1オクターブ低く書く移調楽器で、マリンバは移調しません。
違いが生まれる理由:音板の下側を、どう削るか
木の板は、下側を弓形に削ると、同じ長さのまま低い音が出ます。さらに、削る位置と深さを変えると、基音と一緒に鳴る上の成分の高さを調整できます。マリンバの音板は、この上の成分がほぼ基音の4倍、つまり2オクターブ上に来るよう、深く削って合わせます。シロフォンは削りが浅く、最初の上の成分が基音の3倍、1オクターブと5度上に来ます。
資料によって「第2部分音」「第4倍音」と数え方が違うため、ここでは基音の何倍の振動数かで書いています。
音板の下の共鳴管は、基音に合わせた長さで作られます。一端が閉じた管は、基音の1倍、3倍、5倍といった奇数倍の成分を強めます。そのため、シロフォンの3倍の成分は共鳴管に助けられて強く響き、マリンバの4倍の成分は助けを受けません。シロフォンの鋭く明るい音は、硬い音板とこの3倍の成分が強められることによる、と説明されます。
マリンバとシロフォンが生まれた時代:同じ木の楽器が、別の土地で育つ
木の音板を並べて叩く楽器は古く、アフリカにも東南アジアにもあり、起源は資料で意見が分かれています。マリンバとシロフォンは、この系統がヨーロッパとラテンアメリカという別の場所で、別々の名前と姿を得たものです。
年 | 場所 | できごと |
|---|---|---|
1511年 | — | アルノルト・シュリックの著書に「木のがたがた」の名で登場。ヨーロッパでの早い時期の言及とされる |
1540〜50年代 | 中米(チアパス、グアテマラ) | 中米でマリンバの古い記録(チアパスで1545年、グアテマラで1550年) |
1874年 | — | サン=サーンスの「死の舞踏」が書かれ、シロフォンが骨のかたかた鳴る音を描く |
19世紀末 | メキシコ、グアテマラ | マリンバが改良される(1892年メキシコの二段鍵盤説、1894年グアテマラの半音階説がある) |
1940年 | カーネギー・ホール | ポール・クレストンの「マリンバのための小協奏曲」がカーネギー・ホールで初演される |
「シロフォン」という語が使われ始めたのは1860年代で、1874年には「死の舞踏」で管弦楽に使われました。1920年代から30年代には、明るく弾む音が踊りの音楽に合うとして、ジャズバンドでも使われました。
マリンバは、アフリカに由来する名を持ち、奴隷としてアフリカから連れてこられた人々によってラテンアメリカへ伝わったと考えられています。19世紀末の改良のあと、1910年代には米国でも作られ始めました。つまりシロフォンは19世紀に管弦楽の彩りとして先に舞台へ上がり、マリンバは20世紀に独奏楽器として並びました。
どんな場面で使い分けられるのか
場面ごとの使い分けは、こうした時代の流れとも重なります。シロフォンは、乾いて鋭い音がよく通るので、オーケストラでは骨や踊りといった軽快な情景の描写に使われます。ハチャトゥリアンの「剣の舞」には目立つシロフォンのパートがあり、ショスタコーヴィチもこの楽器を好んだとされます。一方、マリンバは、深みのある音と広い音域を生かして、独奏や協奏曲の主役になります。
オーケストラの打楽器奏者が、曲の中でこうした楽器をどう持ち替えているかは、打楽器奏者は1曲で何種類持ち替えるのかで整理しています。
一段深く:同じ“ラ”を叩いても、上に重なる音が違う
音響設計の目で見ると、2つの楽器の差は、基音の上に何が重なるかの設計の差です。基音をラ(220Hz)とすると、マリンバの4倍は880Hzで2オクターブ上のラ、シロフォンの3倍は660Hzで、1オクターブと5度上のミにほぼ当たります。同じラの音板を叩いても、上に重なる成分はラとミに分かれます。この周波数は、4倍と3倍という比から私が計算した値です。
この話の土台は、音が基音と上の成分の重なりでできているという考え方です。管楽器での現れ方は、ホルンはなぜ「難しい楽器」と言われるのかが倍音列の側から扱っています。膜でできたティンパニが音程を持つ理由は、ティンパニはなぜ音程があるのかにあります。
よくある質問
Q. 「木琴」とシロフォンは同じ意味ですか
A. 日本語の「木琴」は、木製の音板を鍵盤と同じ順に並べ、マレットで叩いて鳴らす打楽器の総称です。マリンバもシロフォンも、その仲間に入ります。オーケストラでは、シロフォンとマリンバを一般に別の楽器として扱います。
Q. マリンバの音域は、どこまで広いのですか
A. 最も一般的なのは、A2〜C7の約4.3オクターブです。低い音の音板ほど、幅も長さも大きくなります。
まとめ
マリンバとシロフォンは、どちらも木の音板を鍵盤の順に並べて叩く楽器です。違いは、音板の下側の削り方にあり、マリンバは基音の4倍、シロフォンは3倍の成分を合わせています。音色の差はここから生まれ、音域や楽譜の書き方にも違いがあります。次に木の音板の楽器を聴くときは、音の深みと乾きに耳を向けてみてください。
この記事を書いた人
小林悠真(こばやし・ゆうま)/一般社団法人LFコンサート 代表理事/テューバ奏者。広島県三次市出身。九州大学で音響設計と音楽マネジメントを学び、デザイン思考を軸に持つ。演奏する側の実感と“音の仕組み”の両面から、「誰もが音楽にたどり着ける道筋」のリデザインに取り組む。
