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打楽器奏者は1曲で何種類持ち替えるのか|オーケストラの打楽器セクション

打楽器奏者は1曲で何種類持ち替えるのか|オーケストラの打楽器セクション

「打楽器奏者は、太鼓や鉄琴の前にずっと座っているだけ」——そう思っていませんか。オーケストラの後方、机の上にトライアングルやシンバル、木琴が並んでいる光景を見ると、担当楽器は最初から決まっているように見えます。

でも、公演のたびに打楽器セクションの動きを見てきた私からすると、この思い込みには大きな見落としがあります。打楽器は「ひとり一楽器」の世界ではありません。1曲の中で、ひとりの奏者が3つも4つも楽器を持ち替えるのが普通で、しかも「誰が何を叩くか」は曲を渡された時点ではまだ決まっていないのです。

打楽器セクションとは:まず1分だけ

打楽器セクションは、ティンパニのように音程を持つ楽器と、大太鼓やシンバルのように音程を持たない楽器をまとめて担当する一群です。弦楽器のように1人が1パート1楽器を受け持つのではなく、数人で十数種類の楽器を分担します。編成の規模にもよりますが、オーケストラの打楽器奏者はティンパニ奏者を除いておおよそ2〜4人程度で、残りの楽器すべてを回すことが少なくありません。

楽譜には「Perc.1」としか書いていない

弦楽器のパート譜には「第1ヴァイオリン」のように楽器名がそのまま書かれます。ところが打楽器のパート譜は違います。書かれているのは多くの場合「Percussion 1」「Percussion 2」のような番号だけで、その番号がどの楽器を叩くかはあらかじめ指定されていません。譜面上には「トライアングルへ持ち替え」「次の小節でバスドラムへ」といった移動の指示が並び、担当楽器そのものは固定されていないのです。ティンパニだけは専用の奏者・専用の段で書かれるのが通例です。

誰が何を叩くかは、奏者どうしで決める

では、誰がどの楽器を叩くかは誰が決めるのか。作曲家でも指揮者でもなく、多くの場合は打楽器セクションの奏者どうしで割り振ります。曲全体を見渡し、どの奏者がどのタイミングで手が空いているか、逆にほとんど休みなく動き続ける奏者は誰かを洗い出したうえで、パート分けを組み立てます。1つのPercパートを1人が最初から最後まで受け持つとは限らず、曲の途中で担当を交代することもあります。

配置が動きを決める

割り振りが決まると、次は楽器の配置です。オーケストラの楽器配置は指揮者から見て左右対称に近い形が基本ですが、打楽器セクションだけは事情が違います。楽器の多くは弦楽器や管楽器のように床に固定して置けるものではなく、演奏中に手が届く範囲へ、動線を考えて配置し直す必要があります。ティンパニを軸に、隣にシンバルと大太鼓、その奥に木琴や鉄琴を置く——という具合に、1曲ごとにセッティング図を描き直すことも珍しくありません。

1曲の中で、何度も持ち替える

移動には物理的な時間がかかります。マレット(ばち)を持ち替えるだけなら数秒ですが、離れた楽器へ歩いて移動するとなると、もっと長い休符が必要です。作品によっては、この持ち替えの負荷がとても大きくなります。たとえばムソルグスキーの「展覧会の絵」は、ラヴェルによる管弦楽編曲で銅鑼や鐘、木琴など多くの打楽器が指定されています。

1曲の準備は、おおむね次の順で進みます。

  1. 譜面の読み込みと、持ち替え箇所の洗い出し
  2. 奏者どうしでの担当決め
  3. 楽器の配置図づくり
  4. 移動にかかる時間の実地確認

一段深く:セッティングは「音の設計図」でもある

打楽器の配置は、単に「移動を間に合わせるため」だけの作業ではありません。私はこれを、演奏する側と主催する側の両方の立場から見てきました。楽器をどこに置くかは、そのままホールの中でどこから音が飛んでくるかを決めます。低音の大太鼓を後方の壁際に寄せれば重心の低い響きになり、シンバルを前方に出せば輝きが客席へ直進します。配置は動線の問題であると同時に、音響の設計そのものなのです。

公演を主催する側から見ると、この搬入・配置・転換は本番前の限られた時間の中でしか組めません。リハーサルのどこかで打楽器セクションの動線を実際に歩いて確認できるかどうかは、当日の演奏の安定度に直結します。客席からは見えない作業ですが、演奏の質を決めているのは、この見えない設計の部分です。

よくある質問

Q. 打楽器奏者は全部の楽器を演奏できるの?

A. 打楽器セクションの奏者は、基本的にどの楽器も一定水準で演奏できるよう訓練されています。ただし曲によって得意な楽器へ配置を寄せることもあり、必ずしも均等に分担するとは限りません。

Q. 楽器を間違えて叩いてしまうことはないの?

A. 配置とパート割りをリハーサル段階で固めておくことで、本番中の取り違えはほとんど起きません。譜面には持ち替えの指示が明記されており、事前の準備がそのまま安全弁になっています。

まとめ

打楽器は「ひとり一楽器」ではありません。譜面には「Perc.1」のような番号だけが書かれ、誰が何を叩くかは奏者どうしで決め、楽器の配置と移動の動線まで含めて1曲が組み上がっています。次にオーケストラを聴くときは、後方で楽器のあいだを静かに移動していく打楽器奏者の姿にも、少し目を向けてみてください。

この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/一般社団法人LFコンサート 代表理事/テューバ奏者。広島県三次市出身。九州大学で音響設計と音楽マネジメントを学び、デザイン思考を軸に持つ。演奏する側の実感と“音の仕組み”の両面から、「誰もが音楽にたどり着ける道筋」のリデザインに取り組む。

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