指揮者もコンサートマスターも、指揮台のすぐそばでオーケストラをまとめている人です。団員が演奏しながら目を向ける相手でもあります。それなのに、片方は音を出さず、もう片方はヴァイオリンを弾いています。
違いの核心は、音を出す側にいるかどうかにあります。指揮者は音を出さずに楽曲の解釈を決める人で、コンサートマスターは弦楽器の仲間と一緒に弾きながら、その解釈を弓の動きに置き換えて示す人です。細かな線引きは楽団や指揮者で変わるので、一般的な説明を軸にします。
指揮者とコンサートマスターの違い:まず1分だけ
指揮者は、楽曲に自分の解釈を与え、テンポやパート間の音量バランスを決めて、拍子や合図で演奏のタイミングをそろえる人です。演奏の最中に自分では楽器を鳴らさないのが特徴です。
コンサートマスターは、第1ヴァイオリンの首席奏者が務めるのが通例です。客席から見て指揮者の左側、客席にいちばん近い席に座ります。
並べて見ると、違いは4つに絞れます
比べる点 | 指揮者 | コンサートマスター |
|---|---|---|
音を出すか | 楽器は弾かない | 第1ヴァイオリンの首席として弾く |
いる場所 | 指揮台の上 | 指揮者の左、客席にいちばん近い席 |
合図の出し方 | 拍子、表情、身ぶり | 弓の動き、起立や着席などの合図 |
主な仕事 | 解釈、テンポ、音量バランス | 弓使いの統一、チューニング、指揮者と団員の橋渡し、ソロ |
表で見てほしいのは、どちらも「合図を出す人」だという点です。団員は指揮者を見ると同時に、コンサートマスターも見て演奏すると説明されます。指揮者は手で、コンサートマスターは弓で、演奏の出だしなどのタイミングを示す役を分け合っています。
違いが生まれる理由:合図を専任の人に任せるようになった
小さな編成なら、団員の誰かが演奏しながら全体を導けます。けれど編成が大きくなると、演奏しながら導くのも、それを追うのも難しくなります。そこで、演奏に加わらず合図に専念する人が置かれるようになりました。
指揮者が専任になっても、コンサートマスターの役は消えませんでした。今のコンサートマスターは、音を出さない指揮者の意図を、音を出す弦楽器の側で具体的な弾き方に置き換える役を担っています。なお、指揮者を置かないオーケストラも、小編成を中心に今もあります。
二人が分かれていった時代:18世紀から19世紀のヨーロッパ
年 | 場所 | できごと |
|---|---|---|
18世紀 | — | 楽団の一員が全体を率いる。コンサートマスターは弓で、チェンバロ奏者は手で合図を送った |
1820年ごろ | — | 専任の指揮者が標準になったとされる。同じ時代の指揮者ルイ・シュポーアは、指揮棒を早く使った一人で、リハーサル記号も考案した |
1835年 | ライプツィヒ | メンデルスゾーンがライプツィヒのゲヴァントハウス管弦楽団の音楽監督になる。コンサートマスターは同じころから務めたフェルディナント・ダヴィッド |
1845年 | ライプツィヒ | メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲が初演される。独奏はダヴィッド、指揮は病気のメンデルスゾーンに代わってニールス・ゲーゼ |
1880年 | マイニンゲン | ハンス・フォン・ビューローがマイニンゲン宮廷管弦楽団を率い、団員に自分のパートを暗譜させた |
専任の指揮者が標準になった時期は、19世紀半ば以降に専門職化が進んだという説明もあり、資料によって幅があります。ダヴィッドの就任年も、資料により1年ずれます。
演奏の現場で見ると、ライプツィヒでは指揮者を兼ねる作曲家と、コンサートマスターが近い距離で曲を作っていました。メンデルスゾーンは旧友のダヴィッドに技術的な助言を求めながら、協奏曲を約6年かけて書いています。初演で独奏を弾いたのもダヴィッドです。曲全体を見る指揮者と弦楽器の側から支えるコンサートマスターという分担は、こうした現場で定着した、と筆者は整理しています。
本番の舞台と練習で、二人はどこで見分けられるか
開演前、最初に動くのはコンサートマスターです。チューニングの流れはオーケストラのチューニングはなぜオーボエから始まるのかで整理していますが、一般にはコンサートマスターが着席してから指揮者を迎えます。基準の音の取り方は国によって違うと紹介されています。
練習では、指揮者が言葉で指示を出し、コンサートマスターがそれを補足して、団員を代表して指揮者と相談します。多くの楽団では、楽譜に弓使いの指示がない部分をコンサートマスターが決めます。
指揮者の仕事そのものは指揮者は“タクトを振るだけ”じゃない、練習での進み方はオーケストラのリハーサルでは何をしているのかに書いています。
一段深く:動きで予告する合図と、音を伴う合図
合図の届き方から考えると、二人の合図は性質が違います。指揮者の腕は音を出さないので、合図は必ず音より前に出さなければなりません。奏者は、その予告の動きから、音が出る瞬間を読み取ります。コンサートマスターの弓は、音を出す動作そのものです。オーケストラは、その弓の動きを出だしの手がかりにすることが多いと説明されます。
ここに音の速さが関わります。音速を毎秒340メートルとして計算すると、10メートル離れた席には、音が届くまでに約30ミリ秒かかります。後ろの奏者が前列の音を聞いてから出れば、その分だけ遅れてしまうので、目で見える合図が要ります。
標準的な配置では、金管楽器は木管楽器のさらに後方に並びます。配置から考えると、テューバのように後ろ寄りに座る楽器から見て、前列のコンサートマスターの弓は遠く、小さく見えます。指揮台の上の腕のほうが目に入りやすい位置関係です。
配置は楽団や曲で変わりますが、席によって頼りにする合図が変わりうる、と考えると二人の分担が具体的になります。合奏での無言のやりとりはアマチュアオーケストラの1年の中でも触れています。
よくある質問
Q. コンサートマスターが、指揮者の代わりに指揮をすることはありますか
A. 本番で指揮者が出演できなくなったとき、コンサートマスターが指揮を代行することもあると説明されています。ただし、いつもそうなると決まっているわけではなく、楽団や状況によって対応は変わります。
Q. 海外では、コンサートマスターは何と呼ばれますか
A. 英語では concertmaster で、英国では leader、ドイツ語では Konzertmeister と呼ばれます。呼び方は違っても、同じ役を指します。
まとめ
指揮者は音を出さずに解釈と合図を担い、コンサートマスターは音を出しながら、その解釈を弦楽器の弾き方に落とし込みます。合図を専任の人に任せるようになった経緯から見ると、「音を出さない合図」と「音を出す合図」に分かれた、と整理できます。次にオーケストラを聴くときは、指揮者の腕と、コンサートマスターの弓を、続けて見比べてみてください。
この記事を書いた人
小林悠真(こばやし・ゆうま)/一般社団法人LFコンサート 代表理事/テューバ奏者。広島県三次市出身。九州大学で音響設計と音楽マネジメントを学び、デザイン思考を軸に持つ。演奏する側の実感と“音の仕組み”の両面から、「誰もが音楽にたどり着ける道筋」のリデザインに取り組む。
