クラシックは、音楽のジャンルの名前です。オーケストラは、演奏する編成の名前です。軸が別なので、クラシックなのにオーケストラではない演奏もあれば、オーケストラが演奏するのにクラシックではない音楽もあります。
「クラシックのコンサート」と「オーケストラのコンサート」を、同じ意味で使っていませんか。たいていの場合は通じますが、ピアノ1台のクラシックの公演もあれば、オーケストラが映画音楽を演奏する公演もあります。名前が指しているものが違うので、ときどき話がかみ合わなくなります。
私はテューバ奏者で、オーケストラでも金管五重奏でも吹きます。どちらもクラシックと呼ばれますが、編成はまったく違います。この違いを分けて見る立場から、2つの言葉を整理します。
クラシックとオーケストラの違い:まず1分だけ
クラシックとは、西洋で受け継がれてきた芸術音楽の伝統のことです。少なくとも9世紀から、おもに楽譜に書かれる形で受け継がれてきました。民謡やポピュラー音楽とは区別される、形式を持った音楽の伝統とされています。
オーケストラとは、異なる種類の楽器を組み合わせた、大きな合奏の編成です。弦楽器、木管楽器、金管楽器、打楽器の4つのグループで構成されます。交響楽団は通常80人を超える奏者を登録し、100人を超えることもあります。室内オーケストラは、50人ほどまでの小さな編成です。
つまり、クラシックは“どんな音楽の伝統か”を、オーケストラは“だれがどう演奏するか”を表す言葉です。
2つの軸を組み合わせると、4つに分かれる
オーケストラで演奏する | オーケストラでは演奏しない | |
|---|---|---|
クラシック | 交響曲、協奏曲、オペラやバレエの伴奏 | ピアノ独奏、弦楽四重奏、合唱曲(ミサやモテット) |
クラシックではない | 映画音楽、テレビやゲームの音楽、ロックやポップスのバンドとの共演 | ポップスやロックのバンド |
この表で大事なのは、左下の欄です。オーケストラは映画音楽に幅広く使われ、テレビやゲームの音楽にも使われることが増えています。ロックやポップスのバンドの演奏に、オーケストラが加わることもあります。
ただし、境目がいつも明確とは限りません。映画音楽やゲーム音楽を、クラシックとは別の分野として語ることが多い、という意味で、この表に置きました。
右上の欄:オーケストラのいないクラシック
クラシックには、オーケストラを使わない音楽がたくさんあります。ロマン派の時代には、さまざまなピアノの作品が書かれました。古典派の時代の作品にも、交響曲や協奏曲と並んで弦楽四重奏があります。ミサやモテットのような合唱曲は、ルネサンスの作曲家が新しい水準に引き上げました。
弦楽四重奏が“小さなオーケストラ”ではない理由は、室内楽とは?“小さいオーケストラ”じゃないで書きました。吹奏楽もオーケストラではなく別の編成で、その違いは吹奏楽とオーケストラの違いにまとめています。
一段深く:“クラシック”という言葉にも2つの意味がある
クラシックという言葉は、広い意味と狭い意味の2通りで使われます。広い意味では、中世から21世紀までの西洋の芸術音楽のすべてを指します。狭い意味では、1750年ごろから1820年代初めまでの「古典派」という時代の音楽だけを指します。
モーツァルトの時代の交響曲や協奏曲が、その古典派にあたります。私は、普段の会話で使う“クラシック”は広い意味のほうで、編成の名前であるオーケストラとは別の軸なのだと整理しています。交響曲や協奏曲の違いは交響曲と協奏曲の違いで扱っています。
ジャンルの名前と編成の名前を分けておくと、「オーケストラは聴くが、クラシックは難しそう」と感じている人にも、入口が増えます。オーケストラで映画音楽を聴く入口もありますし、ピアノ1台で、クラシックだけを聴く入口もあるからです。
よくある質問
Q. オーケストラの演奏会は、すべてクラシックですか
A. いいえ。オーケストラは映画音楽やテレビ、ゲームの音楽にも使われ、ロックやポップスのバンドと一緒に演奏することもあります。ただ、オーケストラはクラシックを代表する編成です。
Q. 吹奏楽で演奏する曲は、クラシックですか
A. 吹奏楽は編成の名前で、曲のジャンルとは別です。オーケストラの名曲を吹奏楽向けに編曲した版がとても多く、吹奏楽のために書かれた作品もあります。
Q. クラシックは古い音楽のことですか
A. 広い意味では、中世から21世紀までの西洋の芸術音楽を指します。狭い意味では、1750年ごろから1820年代初めの古典派の音楽だけを指します。
まとめ
クラシックはジャンルの名前で、オーケストラは演奏する編成の名前です。2つを組み合わせると、クラシックでオーケストラ、クラシックでオーケストラなし、オーケストラでクラシックではない音楽、という4つの場面が見えてきます。次に演奏会の案内を見るときは、ジャンルと編成のどちらが書いてあるのか、探してみてください。
この記事を書いた人
小林悠真(こばやし・ゆうま)/一般社団法人LFコンサート 代表理事/テューバ奏者。広島県三次市出身。九州大学で音響設計と音楽マネジメントを学び、デザイン思考を軸に持つ。演奏する側の実感と“音の仕組み”の両面から、「誰もが音楽にたどり着ける道筋」のリデザインに取り組む。
