スラーとタイは、どちらも音符を弧線で結ぶ記号なので、楽譜の上ではそっくりに見えます。違いは、弧が結ぶ音の高さにあります。同じ高さの音を結ぶのがタイ、高さの違う音を結ぶのがスラーです。
「同じ弧なのだから、どちらも音をつなぐ記号でしょう」と思われがちです。けれども弧が伝えていることは別で、片方は音の長さを、もう片方は音のつなぎ方を伝えています。
スラーとタイの違い:まず1分だけ
タイは、隣り合う2つの同じ高さの音符を結ぶ曲線です。結ばれた音符は1つの音として演奏され、長さは2つの音符の長さを足したものになります。たとえば4分の4拍子で、小節の後半にある2分音符と、次の小節の頭にある2分音符をタイで結ぶと、4拍ぶんの1つの音になります。
スラーは、高さの違う音符を結び、音と音を切らずになめらかにつなげて演奏する指示です。弦楽器なら一回の弓の動き(ひと弓)で、管楽器なら基本的にタンギングを付けずに、声楽なら一つの音節で歌う音のまとまりに使われます。音符は別々の音のままで、つなぎ方だけが指定されます。
並べて見ると、違いは4つに絞れます
比べる点 | タイ | スラー |
|---|---|---|
結ぶ音の高さ | 同じ高さの音だけ | 高さの違う音も結べる |
音の数 | 結んだ2つの音符を、演奏する音は1つ | 音符の数のまま、別々の音として鳴る |
演奏で起こること | 2つ目を鳴らし直さず、音を伸ばす | 音の間を切らず、なめらかにつなぐ |
楽譜での役目 | 音の長さを書き表す | つなぎ方と、フレーズのまとまりを示す |
表のいちばん上の行が、見分けの出発点です。弧がかかっている音符の高さをそろえて見て、同じならタイ、違えばスラーと読むのが基本です。
違いが生まれる理由:タイは書き方、スラーは奏法
タイが必要になる理由は、記譜の都合です。小節線をまたいで音を伸ばしたいときや、拍の区切りをはっきり見せたいときには、音符を2つに分けてタイで結びます。たとえば4分音符と8分音符をタイで結ぶと付点4分音符と同じ長さになりますが、間に小節線や拍の区切りが入るときは、タイで書く理由になります。演奏は変わらず、楽譜が読みやすくなります。
一方のスラーは、奏者への演奏の指示です。同じ弧線でも、タイは「この長さで1つの音」と読み手に伝え、スラーは「この範囲を切らずに」と奏者に伝えます。タイは音の数をまとめ、スラーは音の数を変えずに、つなぎ方だけを変える記号です。
タイとスラーが生まれた時代
二つの弧は、楽譜の書き方が整っていく流れの中で、別々の必要から育ちました。年代順に並べると、次のようになります。
年 | 場所 | できごと |
|---|---|---|
800年ごろ〜1650年ごろ | — | 複数の音を一つの音節にまとめて歌う「連結記号(リガトゥーラ)」が、中世以来の楽譜で使われる |
15〜16世紀 | — | 鍵盤楽器とビウエラの楽譜に、最初期の小節線が現れる。まだ一定の拍数の区切りではなかった |
1523年 | ヴェネツィア | オルガン奏者マルコ・アントニオ・カヴァッツォーニの曲集(ヴェネツィア刊)に、タイが現れる |
17世紀半ば | — | どの小節も同じ長さになる、現代と同じ小節線が定着する |
タイが現れる1523年は、鍵盤楽器の楽譜に小節線が使われはじめていた時期と重なります。初期の通奏低音では、同じ低音の上で和音がどれだけ続くかを示すのにも使われました。
スラーの側は、17世紀まで奏法の指示そのものが楽譜にあまり書かれませんでした。18世紀半ばのマンハイム楽派(1750年にヨハン・シュターミッツが楽団を率いる立場になった宮廷オーケストラ)には、下がる2音をスラーで結び、最初の音に重みをかける「マンハイムのため息」という奏法がありました。バロック以来の慣習を様式化したものとされます。タイは書き方の都合から、スラーは演奏の現場の要請から育ったと整理できます。
混同されやすい点:同時に書かれる場面もあります
混同の原因は、弧の見た目が同じことに加えて、二つが同じ場所に書かれることがあるからです。スラーで結ばれたフレーズの中に、タイで結ばれた音が入る場合があり、そのときは二つの弧を区別して書くものとされています。読むときは二段に分けて、まず同じ高さの音をタイで1つにまとめ、そのうえでスラーの範囲をなめらかにつなぐ、と考えると整理できます。
もうひとつ、タイは音を「伸ばす」記号であって、同じ音を「繰り返す」記号ではありません。同じ高さの音がもう一度鳴るのか、鳴らずに続くのかは、弧が付いているかどうかで決まります。
一段深く:弧の下で、音の出だしは何回あるか
音響設計の目で整理すると、二つの記号の違いは、弧の下で音の出だし(アタック)が何回起きるかに表れます。タイは結んだ2つの音符を1つの音として演奏するので、出だしは1回です。スラーは、弦楽器のひと弓や、管楽器のタンギングなしの演奏で、音の高さが替わっても出だしを付け直しません。数える単位は、タイが「音の長さ」、スラーが「音のつながり」です。
管楽器の側から言い換えると、スラーは基本的にタンギングを付けずに音だけを替える指示です。同じ弧でも、弦楽器ではひと弓、声楽では一つの音節というように、数える単位が楽器ごとに違います。
スラーにはもうひとつの顔があります。スラーはフレーズのまとまりを表すことも多く、その場合は、弧の終点の音を弱めて、まとまりを感じさせるのが普通とされます。スラーはフレーズの一部しか表さないことがあり、弦楽器の記譜法では、複数のひと弓にまたがるフレーズ記号は破線の弧で別に書くとされます。スラーは「つなぎ方」と「まとまり」を兼ねる記号です。
だから、長いスラーは字面どおりに息や弓が続かないことがあります。作曲者が「できるだけレガートで」という意味で、実際には演奏しきれない長さのスラーを書くこともあるそうです。弧の長さがそのまま息の長さになるとは限らず、音の切り方や続け方は、楽譜だけでは決まり切らない領域が残ります。楽譜の約束事のうち、番号の読み方は作品番号(Op.)とは?でまとめています。
よくある質問
Q. タイでつないだ2つ目の音は、弾き直しますか
A. 弾き直しません。タイで結ばれた音符は1つの音として演奏され、長さが足されるだけです。タイは楽譜に長さを書く記号です。
Q. 同じ高さの音を結んだ弧は、いつもタイですか
A. ほとんどはタイです。ただし、弧の下の音符に点(スタッカートの点)が付いているときは、ポルタートという奏法の指示のことがあります。弦楽器では、ひと弓のまま音を1つずつ軽く弾き直し、脈打つように鳴らします。同じ点の書き方はスタッカートなどにも使われるため、曲や楽譜に合わせて意味を確かめます。
まとめ
スラーとタイは、弧の見た目が同じでも別の記号です。同じ高さの音を結んで1つの音にまとめるのがタイ、高さの違う音を切らずにつなぐのがスラーで、片方は長さの話、もう片方はつなぎ方の話です。次に楽譜を見るときは、弧の両端の音の高さをそろえて見てみてください。ほかの用語の全体像は、クラシック音楽の用語をやさしく解説|まず知っておきたい10の言葉にまとめています。
この記事を書いた人
小林悠真(こばやし・ゆうま)/一般社団法人LFコンサート 代表理事/テューバ奏者。広島県三次市出身。九州大学で音響設計と音楽マネジメントを学び、デザイン思考を軸に持つ。演奏する側の実感と“音の仕組み”の両面から、「誰もが音楽にたどり着ける道筋」のリデザインに取り組む。
