演奏会のプログラムを開くと、「交響曲第5番 作品67」「ソナタ形式」「室内楽」といった言葉が並んでいます。ひとつずつ調べるほどでもないけれど、なんとなく分からないまま座っている——そういう方は多いはずです。テューバ奏者として舞台の側からこれらの言葉を使ってきた私から言うと、クラシックの用語は10語ほど押さえれば、プログラムはだいたい読めます。
クラシックの用語は10語でだいたい足りる:まず1分だけ
覚えるべき言葉は、大きく4つのグループに分かれます。①曲の形をあらわす言葉、②音の表情と声をあらわす言葉、③楽譜と人にまつわる言葉、そして④編成そのものの違いです。プログラムに出てくるのはほとんどこの4種類です。
そして10語に共通していることがひとつあります。どれも「よく思われているのとは少し違う」言葉だということです。誤解されやすい点を先に知っておくと、意味も一緒に入ってきます。
① 曲の形をあらわす言葉
- 交響曲:オーケストラのための大きな曲で、40分ほどかかることもあります。演奏する側から言うと、「全部わかろう」とするとかえって楽しめなくなる曲です。
- 協奏曲:独奏者とオーケストラが一緒に演奏する曲。独奏者だけを聴く曲だと思われがちですが、それだと半分もったいないです。
- 組曲:「くるみ割り人形組曲」のように、いくつかの曲がまとまった形。実は成り立ちのまったく違う2系統の音楽が、同じ名前で呼ばれています。
- 室内楽:弦楽四重奏に代表される少人数の音楽。「小さいオーケストラ」ではなく、まったく別の設計で音楽を鳴らす仕組みです。
- ソナタ形式:提示部・展開部・再現部という三部構成。暗記事項ではなく、初めて聴く人を迷子にさせないための「物語の設計図」です。
② 音の表情と声をあらわす言葉
- 長調と短調:どちらも1オクターブを7つの音で埋める「音階」の種類です。「明るい・暗い」の線引きは、思われているよりずっと繊細です。
- オペラの声種:ソプラノ・テノール・バスといった区分。ただ「高い声が出るかどうか」で決まるものではありません。
③ 楽譜と人にまつわる言葉
- 作品番号(Op.):「作品67」「BWV1068」「K.550」のような番号。難しい記号ではなく、作曲家がどう働き、どう記録されてきたかを教えてくれるものです。
- 指揮者:「タクトを振るだけ」の役割ではありません。指揮者の背中を見ている奏者の側からだと、何をしているのかがよく見えます。
④ 編成そのものが違うとき
- 吹奏楽とオーケストラの違い:いちばん大きな違いは弦楽器の有無です。似ているようでいて、生まれた目的からして違います。
プログラムの1行を読んでみる
実際のプログラムは、この10語の組み合わせでできています。たとえば次の1行です。
交響曲第5番 ハ短調 作品67
ここには3つ入っています。交響曲(曲の形)、ハ短調の「短調」(音階の種類)、作品67(作品番号)。どれも上のリストにある言葉です。番号や調の部分を別の曲に置き換えても、構造は変わりません。
だから10語を一度に覚える必要はありません。その日のプログラムに出てくる2〜3語が分かれば、もうその1行は読めています。
一段深く:用語は「覚えるもの」ではなく「聴き方の入口」
この10語を並べてみると、あることに気づきます。どれも「言葉の意味」より「その音楽がどう組み立てられているか」を指しているのです。交響曲が長いのにも、協奏曲に独奏者がいるのにも、ソナタ形式が三部構成なのにも、それぞれ理由があります。
だから用語を覚えること自体は目的になりません。「この曲はこういう仕組みでできている」と分かった瞬間に、同じ演奏がまったく違って聞こえます。低音の椅子に座っている私自身、この10語の意味が変わるたびに、演奏の仕方も変わってきました。
よくある質問
Q. 全部覚えないと、コンサートに行ってはいけませんか?
そんなことはありません。ひとつも知らなくても音楽は鳴りますし、実際そうやって聴いている方も大勢います。ただ、プログラムに書いてある言葉が1つでも分かると、その日の演奏会は少し違って見えます。
Q. どれから読むのがおすすめですか?
行く予定のコンサートのプログラムに載っている言葉からで十分です。「交響曲」と書いてあれば交響曲から、「協奏曲」とあれば協奏曲から。順番に全部を追う必要はありません。
まとめ
クラシックの用語は、曲の形・音の表情・楽譜と人・編成の4グループ、あわせて10語ほどでプログラムはだいたい読めます。そしてそのどれもが、よく思われているのとは少し違う言葉です。気になった1語から、リンク先をのぞいてみてください。
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この記事を書いた人
小林悠真(こばやし・ゆうま)/一般社団法人LFコンサート 代表理事/テューバ奏者。広島県三次市出身。九州大学で音響設計と音楽マネジメントを学び、デザイン思考を軸に持つ。演奏する側の実感と“音の仕組み”の両面から、「誰もが音楽にたどり着ける道筋」のリデザインに取り組む。
