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コラムいまさら聞けないクラシック

タクトを振る意味|指揮棒は拍を遠くの奏者に見せる道具

タクトを振る意味|指揮棒は拍を遠くの奏者に見せる道具

「タクトを振る」とは、指揮者が拍を示して演奏をまとめることを言います。タクトは、ドイツ語で拍子を意味する Takt に由来する言葉で、日本語では指揮棒そのものも指します。指揮棒の役目は、拍の位置を、指揮台から遠い奏者にも見える形で届けることです。

演奏会で指揮者の手元を見て、「あの細い棒に何の意味があるのだろう」と思ったことはありませんか。指揮者の腕の動きだけでも、拍は伝わりそうに見えます。ところが、オーケストラの後ろの列から見ると、棒の有無は大きな違いになります。

私はテューバ奏者で、舞台の最後列から指揮者を見る側です。その立場から、指揮棒がどうして必要とされてきたのかをお話しします。

タクトを振る意味:まず1分だけ

Takt は、ラテン語で拍を意味する tactus に由来するとされます。15世紀から16世紀の音楽理論書では、時間を整える基本の単位として tactus が使われ、それがタクトの語源になりました。今日でも「タクトをとる」と言えば、拍や拍子をはっきり示して、音楽を指揮することの言い回しとして使われます。

つまり「タクトを振る」の中身は、もともと拍を示すことです。棒そのものは、そのための道具にすぎません。

指揮棒が生まれるまで:拍を見せる道具の年表

指揮棒が今の形になるまでには、拍を示すためのさまざまな道具が使われてきました。主な出来事を、年代順に並べます。

時期

出来事

16世紀

ドイツの楽長が、杖や丸めた楽譜などで音を立てて拍をとった

1687年

リュリが、長い杖で床を突いて拍をとっていて自分の足を突き、その傷がもとで3月22日に亡くなった

1820年4月10日

シュポーアが、イギリスに指揮棒を紹介したと本人が主張している

1820年から1840年

演奏しない専任の指揮者が定着し、指揮棒が普及する

リュリの出来事は、指揮棒の歴史で触れられることの多い逸話です。伝えられているところでは、1687年1月8日に杖で足の指を突き、その傷が壊疽になって、3月22日に亡くなったと伝えられます。演奏していたのは、ルイ14世の手術からの回復を祝う「テ・デウム」でした。

指揮棒が普及する前は、ヴァイオリンの弓や丸めた紙が使われていました。シュポーアは、イギリスで指揮棒を紹介したと本人が主張していますが、本番よりリハーサルでの使用が中心だった可能性があります。

棒が運ぶのは、拍の位置の情報

棒を使う理由は、見やすさです。素手や丸めた紙より、指揮棒のほうが見えやすいと説明されます。指揮法に詳しいグスタフ・マイヤーによれば、多くの指揮者が棒を使うのは、拍の情報を見えやすくするためです。

拍を示す打点(拍の位置を示す瞬間)は、右手の動きが下から上へ切り替わる点で作ります。棒の場合は、手首の小さな動きや棒の向きの変化で作られます。手首のわずかな動きが、棒の先では大きく見えるわけです。

現在の指揮棒は、軽い木、グラスファイバー、カーボンファイバーなどで作られ、握りの部分にはコルクなどが使われます。長さは12インチから16インチ、つまり30センチから40センチほどが一般的です。

一段深く:後ろの列から見える拍

私が座る舞台の後ろの列は、指揮者からいちばん遠い場所です。ここから見ると、手の動きよりも、棒の先の動きのほうが、拍の打点がはっきり見えます。棒の先は小さく動いても視線の先で追いやすく、拍の位置をつかみやすいのです。

これは、棒が“拍の見やすさ”のための道具だと考えると、納得しやすい話です。指揮者の役割そのものは、指揮者は“タクトを振るだけ”じゃないで書きました。この記事で扱っているのは、その中でも、拍を遠くへ見せる道具としての棒の話です。

棒を持たない指揮者もいる

棒を持たずに手だけで指揮する人もいます。指揮棒を使わなかった、あるいは使わない代表的な指揮者として、ピエール・ブーレーズ、クルト・マズア、レオポルド・ストコフスキーなどが挙げられています。

持たない理由は、指揮者ごとに違うはずで、ここでは一般化しません。私の見方では、棒は拍の見やすさのための道具なので、拍よりも表情や音色の動きを伝えたいときには、手の形のほうが向く場面もあるのだと思います。

編成の大きさが変われば、指揮者から奏者までの距離も変わります。吹奏楽とオーケストラの違いのように、編成の違いを知っておくと、拍を見せる難しさの違いも想像しやすくなります。

よくある質問

Q. 指揮棒が普及する前は、何で拍をとっていたのですか

A. 16世紀のドイツでは、楽長が杖や丸めた楽譜などで音を立てて拍をとっていました。その後、ヴァイオリンの弓や丸めた紙が使われた時期を経て、指揮棒が広まりました。

Q. 指揮棒の長さはどれくらいですか

A. 今は12インチから16インチ、つまり30センチから40センチほどが一般的です。歴史的には10インチから24インチまでありました。

Q. 拍はどちらの手で示すのですか

A. 一般に、拍は右手で示します。上下の動きが、下から上へ切り替わる点で拍の位置を示します。

まとめ

「タクトを振る」とは、拍を示して演奏をまとめることで、棒はそれを遠くの奏者に見せるための道具です。棒を持たない指揮者もいますが、拍の見やすさという目的は同じです。次に演奏会へ行くときは、指揮者の棒の先と、いちばん奥の奏者の目線を、同時に探してみてください。同じ演奏の聴こえ方が、少し変わるかもしれません。

この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/一般社団法人LFコンサート 代表理事/テューバ奏者。広島県三次市出身。九州大学で音響設計と音楽マネジメントを学び、デザイン思考を軸に持つ。演奏する側の実感と“音の仕組み”の両面から、「誰もが音楽にたどり着ける道筋」のリデザインに取り組む。

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