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パッヘルベル「カノン」徹底解説|最後まで同じ低音なのに飽きない理由

パッヘルベル「カノン」徹底解説|最後まで同じ低音なのに飽きない理由

パッヘルベルの「カノン」は、低音パートが同じ8つの音を2小節ごとに28回くり返し、56小節の曲をつくっています。どこかで耳にしたことがある、という人は多いはずです。それなのに、最初から最後まで低音が変わらない曲だと言われると、少し意外に感じませんか。

低音が同じなら、飽きてもおかしくありません。けれども実際には、聴いていて単調だとは感じにくい曲です。低音を受け持つ側から楽譜を見ると、その理由がよく見えてきます。

パッヘルベル「カノン」:まず1分だけ

正式な題は、3つのヴァイオリンと通奏低音のための「カノンとジーグ」です。通奏低音とは、低音の旋律を弾く楽器と、和音を添える楽器が受け持つ伴奏のことで、現在はチェロなどが低音を担当します。ニ長調で書かれた2つの楽章のうち、よく知られているのは最初のカノンです。

カノンとは、同じ旋律を時間差で追いかけていく書き方です。この曲では3つのヴァイオリンが、2小節ずつずれて同じ旋律を弾き始めます。作曲された年も事情も分かっておらず、提案されている年代は1680年から1706年まで幅があります。現存する最古の写本は1838年から1842年のもので、曲が楽譜として出版されたのは1919年のことでした。

低音の8つの音は、和音の進み方そのもの

低音の8つの音は、そのまま8つの和音の進み方を表しています。ニ長調の曲なので、低音はニ(D)から始まり、2小節かけて8つの音を弾いて、また最初に戻ります。

順番

1

2

3

4

5

6

7

8

低音

D

A

B

F♯

G

D

G

A

和音

D

A

Bm

F♯m

G

D

G

A

この和音の並びは、17世紀から18世紀に広く使われたロマネスカという定型にあたるとされます。当時の聴き手にとっては、耳なじみのある土台の上で何が起こるかを聴く曲だったと考えられます。この進行は、のちにさまざまなポップスの曲にも使われました。

冒頭の2小節は、低音だけで始まります。3小節目から1本目のヴァイオリンが入り、2小節おくれて2本目、さらに2小節おくれて3本目が追いかけます。

変わらない土台の上で、上の声部だけが変わっていく

低音と和音が28回くり返されるあいだ、上の声部は少しずつ姿を変えていきます。研究者のウェルターは、この曲を12の変奏に分けて数えています。主なものを並べると、音の細かさが段階的に変わっていくのが分かります。

小節

上の声部の動き

3〜6

4分音符

7〜10

8分音符

11〜14

16分音符

19〜22

音階的な旋律に、32分音符の細かい動き

39〜42

付点のリズム

51〜56

8分音符のオクターブ跳躍

まず4分音符から始まり、8分、16分、32分と動きが細かくなって、その後に付点のリズム、最後は8分音符の大きな跳躍で終わります。ここは変奏の数え方が研究者によって違うところで、28回のくり返しを1つずつ変奏と数える人もいます。

一段深く:同じ音をくり返す側から見る

低音の側に立って考えると、この曲の面白さは“変わらないこと”にあります。同じ音の並びが56小節続くパートでは、今が何回目かを数えること自体が、演奏の一部になります。

ただし、数えながら弾いていても、聞こえてくる響きは毎回同じではありません。上の声部が変わるたびに、同じ低音の和音が、ちがう表情に聞こえるからです。私は、低音が変わらないから安心して上の声部の変化を追える、という設計だと見ています。

くり返しの上に変化を作る曲として、ラヴェルの「ボレロ」があります。あの曲は、リズムを同じにしたまま、旋律を受け持つ楽器を替えて変化を作ります。「カノン」は低音と和音を同じにしたまま、旋律を細かくしていく曲です。繰り返しの上で何を変えるかが、2曲で正反対に近いところがあります。

バロック音楽の同じ時代を知るには、ヴィヴァルディの「四季」もおすすめです。バロックの様式そのものは、バロック・古典派・ロマン派の違いで整理しています。

どうして今のように有名になったのか

この曲が最初に録音されたのは1938年、ベルリンのヘルマン・ディーナーと、その音楽学校の演奏でした。大きな転機になったのは、1968年のジャン=フランソワ・パイヤール室内管弦楽団の録音です。それまでより大幅にゆっくりしたテンポで、ロマン派風の演奏をしたことで、曲の評判が変わったとされます。1976年には、シュトゥットガルト室内管弦楽団のアルバムが、その年のクラシックで最も売れたとされています。

原曲はヴァイオリン3本と通奏低音のための小さな編成です。テンポや編成が変わると、同じ楽譜でも雰囲気がかなり違って聞こえます。

よくある質問

Q. 「カノン」はいつ作曲された曲ですか

A. 分かっていません。作曲された年も事情も不明で、提案されている年代は1680年から1706年まで幅があります。

Q. 低音は本当に28回くり返しているのですか

A. 低音の8音の型を2小節ずつ28回くり返す、と説明されています。28回で56小節になり、楽譜の小節数とも合っています。変奏としての数え方は、研究者によって異なります。

Q. ほかの曲と似て聞こえるのはなぜですか

A. この曲の和音の進み方が、のちのポップスなど、さまざまな曲に使われてきたからです。同じ和音の並びを土台にした曲は、旋律が違っても似た印象を持たれやすくなります。

まとめ

「カノン」は、2小節・8つの音の低音を28回くり返し、その上で3つのヴァイオリンが少しずつ細かい動きに変わっていく曲です。変わらない土台があるから、上の声部の変化がよく聞こえます。次に聴くときは、まず低音だけを追って、何回目で上の声部が変わるのか数えてみてください。

この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/一般社団法人LFコンサート 代表理事/テューバ奏者。広島県三次市出身。九州大学で音響設計と音楽マネジメントを学び、デザイン思考を軸に持つ。演奏する側の実感と“音の仕組み”の両面から、「誰もが音楽にたどり着ける道筋」のリデザインに取り組む。

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