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ヴィヴァルディ「四季」は“ただのBGM”じゃない|各楽章の情景とソネット

ヴィヴァルディ「四季」は“ただのBGM”じゃない|各楽章の情景とソネット

「四季」と聞くと、結婚式や電話の保留音で流れる、あの陽気なヴァイオリンの旋律を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。心地よく耳に馴染む——それだけでも十分に名曲ですが、テューバ奏者としてオーケストラの中に座ってきた私から見ると、この曲を“きれいなBGM”として消費してしまうのは、あまりに惜しいことです。私の立場から言えば、「四季」は音だけの作品ではなく、“詩”と組んで設計された、当時としては驚くほど具体的な音のドラマです。

「四季」とは?:まず1分だけ

「四季」(伊: Le quattro stagioni)は、ヴェネツィアの作曲家アントニオ・ヴィヴァルディ(1678〜1741)が書いた4つのヴァイオリン協奏曲で、1725年に出版された曲集『和声と創意の試み』(作品8)の最初の4曲にあたります。「春」「夏」「秋」「冬」それぞれが急・緩・急の3楽章からなる、当時の標準的な協奏曲の形式です。ここまでは、たいていの解説に書いてある話。この曲がほかの協奏曲と決定的に違うのは、ここからです。

譜面に“詩”が書き込まれている、という事実

出版された楽譜には、各曲の前にソネット(14行の短い詩)が添えられています。ヴィヴァルディ自身の作と考えられているこの詩は、単なる曲紹介ではありません。パート譜のなかに、詩の一節と対応する箇所へアルファベットの記号が書き込まれ、「ここは小川のせせらぎ」「ここは羊飼いの犬の鳴き声」というように、どの音がどの情景を表しているかが指定されているのです。演奏者は詩を読んでから弾きます。聴き手も、詩を知ってから聴くことを想定されています。私はここに、300年前としてはかなり踏み込んだ“設計”を感じます。

春・夏・秋・冬:情景と音の対応を追ってみる

実際にどんな対応があるのか、季節ごとに見ていきましょう。

春:小鳥と、居眠りする羊飼いの犬

第1楽章は春の到来を告げる小鳥のさえずりから始まり、途中で雷雨が訪れて、また鳥の声が戻ります。第2楽章(ラルゴ)では、花の咲く草原で羊飼いが眠り、その傍らでヴィオラが同じ音を繰り返し弾き続けます。これは“忠実な犬の鳴き声”を表す指定で、実際に舞台でヴィオラ奏者がこの一節を弾いているのを見ると、ただの伴奏ではなく“犬”を演じていることがよくわかります。

夏:気だるさの果てに来る嵐

第1楽章は暑さでけだるくなった空気の描写から始まり、カッコウやキジバトの声が挟まれますが、北風が突然吹き込み、羊飼いは嵐を恐れて震えます。第3楽章(プレスト)はその予感が的中し、雹(ひょう)が作物をなぎ倒す激しい嵐の音楽になります。優雅な曲というより、天候に振り回される人間の不安を描いた曲、と言ったほうが近いかもしれません。

秋:酔っ払いの足取りと、狩りの情景

第1楽章は収穫を終えた農民たちの踊りと祝杯の場面です。酔いが回るにつれてテンポが揺れ、足取りがおぼつかなくなる様子まで音で表現されています。第3楽章は一転して狩りの情景で、角笛の呼びかけ、獲物が逃げ、猟犬が追い、最後は獲物が力尽きるところまで描かれます。

冬:凍える息と、暖炉の外の雨

第1楽章は凍てつく雪の中で震え、歯を打ち鳴らす様子が、ヴァイオリンの細かい音の刻みで表現されます。第2楽章(ラルゴ)は一転して暖炉のそばで過ごす穏やかな時間です。外では雨が降っていて、それは弦を指ではじくピッツィカートという奏法で表されています。第3楽章では氷の上を恐る恐る歩き、滑って転ぶ様子、そして北風と南風がせめぎ合う場面までもが音になっています。

一段深く:なぜ“詩”を添えたのか

ここからは私の見方です。ヴィヴァルディがソネットを添えた理由を、私は“設計思考”として捉えています。音楽だけを渡しても、当時の聴き手全員が同じ情景を思い浮かべられるとは限りません。そこでヴィヴァルディは、詩という補助線を引いて、誰が聴いても同じ入り口にたどり着ける仕組みを作りました。専門知識がなくても迷わず使えるようにする工夫——これは製品でいうユーザーインターフェースの発想に近いと、私は考えています。難しい音楽理論を知らなくても「犬が鳴いている」と分かれば、そこから先は誰でも楽しめます。ハードルを外す設計が、300年前の楽譜にすでに仕込まれていたわけです。標題(曲の情景や物語を音で描く)を持つ音楽、いわゆる標題音楽の先駆けと言われるのも、この具体性ゆえです。

よくある質問

Q. 「四季」のソネットは誰が書いたのですか?

A. 楽譜に添えられたソネットは、ヴィヴァルディ自身の作とされています。作者を明記した資料は残っていませんが、曲の細部と詩の対応の精密さから、作曲家自身が詩も手がけたと考えるのが定説です。

Q. 初めて聴くなら、どの楽章から入るのがおすすめですか?

A. まずは「春」の第1楽章から入ってみてください。旋律が親しみやすく、鳥の声や雷雨といった情景の変化もわかりやすいので、“音で描かれた景色”という感覚をつかみやすいはずです。慣れてきたら、劇的な展開を持つ「夏」の第3楽章、狩りの場面がある「秋」の第3楽章へと広げていくと、曲集全体の幅が見えてきます。

まとめ

「四季」は“ただのBGM”として片付けなくても、実は難しく身構える必要もありません。まず「春」の第2楽章で、ヴィオラが犬の鳴き声を弾いている——その一点だけ意識して聴いてみてください。そこから、譜面の向こうにいるヴィヴァルディが、詩と音で情景を設計していたことが見えてくるはずです。

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この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/一般社団法人LFコンサート 代表理事/テューバ奏者。広島県三次市出身。九州大学で音響設計と音楽マネジメントを学び、デザイン思考を軸に持つ。演奏する側の実感と“音の仕組み”の両面から、「誰もが音楽にたどり着ける道筋」のリデザインに取り組む。

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