低い音でボーッと鳴っているだけの楽器——テューバに、そんなイメージを持っていませんか。オーケストラの金管楽器の列の端に座り、出番も少ないです。目立たない裏方の楽器に見えるかもしれません。
テューバ奏者としてオーケストラの一番低い椅子に座り続けてきた私から見ると、その印象は半分だけ正しくて、半分は見当違いです。出番が少ないのは事実です。でも、その少ない出番のひとつひとつが、オーケストラ全体の響きを下から支えています。
テューバとは:まず1分だけ
テューバは、金管楽器の中でいちばん低い音域を受け持つ楽器です。太く巻かれた円錐形の管と、ピストンまたはロータリーのバルブを持ち、金管楽器の中では19世紀半ばに開発された比較的新しい部類に入ります。オーケストラでは低音の金管パートとして、コントラバスやファゴット、コントラファゴットと並び、和音のいちばん下を支える役割を担います。
金管4種、音域と役割はどう違うか
金管楽器は「ホルン・トランペット・トロンボーン・テューバ」の4種で編成されるのが一般的です。同じ金管でも、音域と担う役割はそれぞれ違います。
楽器 | 音域の目安 | 編成の目安 | オーケストラでの主な役割 |
|---|---|---|---|
ホルン | 中音域から高音域まで幅広い | 4本編成が標準 | 旋律線と和声の橋渡し。木管とも金管とも溶け合う |
トランペット | 金管の中で最も高い音域 | 2〜3本 | ファンファーレや主旋律。音の輪郭をくっきり描く |
トロンボーン | 中音域から低音域 | 3本(テナー2+バス1が一般的) | 和音を厚く支え、時に力強い旋律も担う |
テューバ | 金管の中で最も低い音域 | 1本が一般的(編成によっては0本) | 低音の土台を、基本的に単独で支える |
見てわかるとおり、ホルンからトランペット、トロンボーンまでは複数本で編成を組みます。ところがテューバだけは、多くの曲で1本しかいません。オーケストラの楽器配置で確認すると、金管の列の中でテューバだけがぽつんと一人分の椅子しか用意されていないことに気づくはずです。
交響曲とはを遡ると、ベートーヴェンの時代にはまだテューバは存在せず、ワーグナーやブルックナーの世代からオーケストラに加わった、比較的新しい仲間だとわかります。古典派の交響曲にテューバの出番がないのは、単に作曲家が省いたのではなく、その頃はまだ楽器そのものが無かったからです。
一段深く:一人だけの低音が背負うもの
テューバという楽器そのものが、じつは“目的から設計しなおす”という発想から生まれています。19世紀半ばまで、オーケストラの最低音は、鍵盤に近い機構を持つオフィクレイドや、木管に近い運指のセルパンといった、扱いにくい楽器が担っていました。「低音を安定して支える金管が要る」という目的に対して、既存の楽器を改良するのではなく、太い円錐管とバルブという新しい仕組みから作り直したのがテューバです。私が普段の仕事で使っている発想と同じものが、楽器の成り立ちにもあります。
本番の椅子に座っていると、この“一人”という編成を強く意識します。ホルンやトロンボーンは仲間と音を分け合えますが、テューバには基本的に譜面を分担する相手がいません。長い休符を自分で数え、入りの一音がオーケストラ全体の和音の土台になります。その緊張感は、低音パートを一人で背負う楽器ならではだと感じています。コントラバスやチェロの低音を耳で拾いながら、和音のいちばん下の音を置きます。私の役目は目立つ旋律を吹くことではなく、他のパートが安心して音を積み上げられる“地面”をつくることだと思っています。
低音を一人で背負うオーケストラに対して、吹奏楽ではテューバが複数本編成されることも珍しくありません。同じ楽器でも、背負う重さが編成によって変わります。詳しくは吹奏楽とオーケストラの違いで比較しています。
よくある質問
Q. なぜオーケストラのテューバは1本だけなのですか?
A. テューバの役割は、和音のいちばん下の音を、揺るがない一本の線として支えることにあります。何本も重ねて厚みを出すというより、単独ではっきり土台を鳴らすことが求められる楽器なので、多くの曲で1本編成が基準になっています。
Q. 吹奏楽とオーケストラでテューバの役割はどう違うのですか?
A. オーケストラではコントラバスと並んで低音を支える一つの声部ですが、吹奏楽は弦楽器がいない分、低音域を金管中心で担う必要があります。そのぶんテューバの人数が増え、旋律や対旋律を吹く場面も出てきます。
まとめ
テューバは、地味な楽器ではありません。オーケストラでただ一人、和音の土台を背負う楽器です。次にコンサートで低音セクションを見かけたら、テューバが何本座っているか、数えてみてください。その本数の少なさこそが、この楽器の役割を物語っています。
この記事を書いた人
小林悠真(こばやし・ゆうま)/一般社団法人LFコンサート 代表理事/テューバ奏者。広島県三次市出身。九州大学で音響設計と音楽マネジメントを学び、デザイン思考を軸に持つ。演奏する側の実感と“音の仕組み”の両面から、「誰もが音楽にたどり着ける道筋」のリデザインに取り組む。
