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コラム金管楽器の話

吹奏楽の楽器配置はなぜオーケストラと違うのか|金管の座る位置と音の向き

吹奏楽の楽器配置はなぜオーケストラと違うのか|金管の座る位置と音の向き

吹奏楽とオーケストラ、舞台に並ぶ人数も雰囲気もよく似ていますよね。楽器の種類もかなり重なっているので、「配置もだいたい同じだろう」と思っていませんか。私自身、オーケストラの舞台でテューバを吹いている側から見ても、両者の並び方は似て非なるものです。

音響設計を学んだ立場から見ると、この違いは偶然でも慣習でもなく、はっきりとした理由があります。吹奏楽には弦楽器がいません。その空白をどう埋めるかという課題が、配置そのものを設計しなおしているのです。

吹奏楽の楽器配置|まず1分だけ

吹奏楽は木管楽器・金管楽器・打楽器だけで編成されます。オーケストラの主力である弦楽器(ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロ・コントラバス)がいません。そのぶん、中音域から低音域までを木管と金管が肩代わりする必要があり、各セクションの人数配分も配置も、オーケストラとは別の設計になります。両者の違いを土台から見たい方は吹奏楽とオーケストラは“ほぼ同じ”じゃないもあわせてどうぞ。編成そのものの違いはそちらに譲り、ここでは「配置」に絞ります。

弦楽器がいない、という配置上の空白

オーケストラでは、指揮者から見て手前にヴァイオリン・ヴィオラ・チェロ・コントラバスが扇状に広がります。人数も多く、音域も高音から低音まで連続してカバーしているので、「音の土台」と「中音域の厚み」の両方を弦楽器だけでほぼ担えます。

吹奏楽にはこの層がまるごとありません。代わりに中音域を引き受けるのが、大人数で編成されるクラリネットです。吹奏楽の指導現場では「クラリネットは吹奏楽の弦楽器」とよく言われます。人数を厚くし、前方から中央にかけて配置するのは、ヴァイオリン隊が果たしていた役割をそのまま引き継ぐためです。

低音側はコントラバスの代わりにバスクラリネット・バリトンサックス・ユーフォニアム・テューバが分担します。配置の設計思想が変わるのは、楽器の種類が違うからではなく、埋めなければならない音域の“穴”が違うからです。

オーケストラと吹奏楽、配置を並べてみる

セクションごとに位置と理由を並べると、両者が別の論理で組まれているのがよく分かります。オーケストラの楽器配置はなぜあの並び?で扱った並びと突き合わせながら読んでみてください。

セクション

オーケストラでの位置

吹奏楽での位置

そうなる理由

フルート・オーボエ

指揮者正面、弦楽器の後方中央

最前列、指揮者に最も近い

音量が小さく音色も繊細なので、共通してほかの楽器に埋もれない位置に置く

クラリネット

木管の一列の中に少人数

前方中央に大人数でひとかたまり

弦楽器のいない中音域を、人数で厚みを出して肩代わりする

サックス

編成に入らないことが多い

木管とホルンの間あたり

木管の柔らかさと金管の芯を橋渡しする、吹奏楽独自の役割を持つ

ホルン

金管列のいちばん奥、体を斜めに向けて座る

中央よりやや後方

ベルが後ろ向きなので、客席方向でなく舞台の奥や壁を向く座り方になる

トランペット・トロンボーン

金管列の後方、ホルンより客席寄り

最後列だが中央に近い位置

ベルが正面を向き音が直進するため、編成の“骨格”として音の方向をはっきり届ける

テューバ

金管列の最後方、中央か右端

最後列の中央、しばしば最奥

ベルが上を向き音が拡散するため、前に出さなくても土台として全体に混ざる

おおよその傾向として書きましたが、実際の並びは指揮者・編曲・ホールの形で変わります。共通しているのは、「客席にどう届けたいか」から逆算して配置が決まるという考え方そのものです。

一段深く|ベルの向きが決める、届く音の質

音響設計の視点から見ると、配置を決めているのはセクションの並び順だけではありません。楽器のベル(朝顔部分)がどちらを向いているかも、同じくらい大きな要因です。

トランペットとトロンボーンはベルが正面を向いています。音は奏者から客席へほぼ直進するので、遠くの席まで芯のある音がまっすぐ届きます。ホルンはベルが奏者の背中側、舞台の奥を向いています。

つまりホルンの音は、いったん後方の反射板や壁に当たってから客席に返ってきます。なぜホールによって音が違うのかで触れた反射の話がここでも効いていて、壁までの距離や素材が変われば、届くホルンの音色も変わります。テューバはベルが上を向く楽器で、音は放射状に広がりながら天井や周囲の楽器に混ざり合って客席へ届きます。指向性が強くない分、最後列の奥に置いても土台としての役割を失いません。

もっとも、ベルの向きだけで席順が決まるわけではありません。音の届き方に加えて、指揮者から見えるか、隣とテンポを合わせられるか、譜面台や打楽器の物理的な置き場所が足りるか——そうした条件が同時に効いています。ベルの向きは、そのうちの一つだと捉えるくらいがちょうどよいはずです。

よくある質問

Q. 吹奏楽でも弦楽器が入ることはありますか?

A. コントラバスだけは吹奏楽編成に含まれることが多く、低音の支えとして重宝されます。ただしヴァイオリンやヴィオラのような旋律を担う弦楽器は基本的に含まれません。

Q. 配置は指揮者や団体によって変わりますか?

A. 変わります。ここで紹介したのは代表的な並び方で、ステージの広さや曲の編成、指揮者の考え方によって細部は団体ごとに違います。

まとめ

吹奏楽の配置がオーケストラと違って見えるのは、見た目の慣習ではなく、弦楽器がいない分の音域を木管と金管でどう埋めるか、そしてベルの向きで音がどう届くかという、二つの設計課題への答えだからです。次に演奏会へ行ったら、誰が客席に直接音を飛ばし、誰が壁を使って音を届けているか、座席表を眺めながら探してみてください。

この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/一般社団法人LFコンサート 代表理事/テューバ奏者。広島県三次市出身。九州大学で音響設計と音楽マネジメントを学び、デザイン思考を軸に持つ。演奏する側の実感と“音の仕組み”の両面から、「誰もが音楽にたどり着ける道筋」のリデザインに取り組む。

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