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コラムピアノと鍵盤の話

ピアノは打楽器なのか弦楽器なのか|分類が割れる理由

ピアノは打楽器なのか弦楽器なのか|分類が割れる理由

ピアノの発表会やオーケストラのプログラムを眺めていて、「これは弦楽器なのか、それとも鍵盤楽器という別ジャンルなのか」と迷ったことはありませんか。ヴァイオリンのように弓で弦をこすることはなく、太鼓のように何かを直接叩くわけでもありません。見た目だけでは、どちらの仲間なのか判断がつきにくい楽器です。

私はテューバ奏者であると同時に、公演を主催する側にも立っています。その両方の立場から見ると、この問いには一つの正解を出さないほうが正確です。ピアノは「弦を叩いて鳴らす」という発音の動作では打楽器の仲間に近く、楽器を体系的に分類する学問の上ではほぼ必ず弦楽器の仲間に入ります。どちらも間違いではありません。答えが割れるのは、分類する側が何を見ているかが違うからです。

ピアノの発音のしくみ:まず1分だけ

ピアノは、鍵盤を押すと内部の小さなハンマーが跳ね上がり、その先端で金属の弦を叩いて音を出す楽器です。叩かれた弦は共鳴板の上で振動し、その振動が徐々に減衰しながら音として響きます。個体や調律によって幅はありますが、鍵盤はおおよそ88、音域は一般的な楽器のなかでも特に広く、おおよそ7オクターブ強にまたがります。この「ハンマーで弦を叩く」という発音のしくみだけを指す言葉が打弦楽器です。同じ鍵盤楽器でも、パイプに空気を送って音を出すオルガンや、弦を爪ではじいて音を出すチェンバロとは、発音のしくみそのものが違います。

分類の物差しを変えると、ピアノの居場所が変わる

ピアノを「弦楽器」と呼ぶ人も「打楽器」と呼ぶ人も、実は同じ楽器を違う物差しで見ています。代表的な物差しを並べると、次のようになります。

分類の枠組み

この枠組みでのピアノの位置

なぜそうなるか

ホルンボステル=ザックス分類(楽器学の体系)

弦鳴楽器(打って鳴らす弦鳴楽器)

音を生んでいる本体は振動する弦そのもの。ハンマーは弦を振動させる「きっかけ」に過ぎず、この分類は発音体(何が振動しているか)で楽器を仕分けるため

西洋の伝統的な三分類(弦楽器・管楽器・打楽器)

どちらにも完全には収まらず「鍵盤楽器」として独立して扱われることが多い

弦を持ちながら弓でこすらず、鍵盤という間接操作を挟んで叩く点が、伝統的な三分類のどの枠にもぴったり当てはまらないため

オーケストラの人員編成・パート表

打楽器セクションの持ち替え楽器として置かれることがある

常設のピアノ奏者ポストがない編成では、鍵盤打楽器(マリンバや木琴など)を担当する奏者がピアノパートも兼ねることが多く、運用上は打楽器に括られるため

発音の動作そのもの

打弦楽器(弦を打って鳴らす楽器)

ハンマーで弦を叩く動きは、太鼓を撥(ばち)で打つ動きと同じ「打つ」運動なので、動作だけを見れば打楽器に近いため

ここでいったん、身近な弦楽器と比べてみます。オーケストラの弦楽器セクションの主役はヴァイオリンはなぜオーケストラで一番多いのかという問いが立つほど数の多い楽器ですが、ピアノがその隊列に並ぶことはありません。ピアノは弦楽器群と一緒に常設で弾かれる楽器ではなく、必要な曲だけ舞台に運び込まれる、いわば客演の鍵盤奏者という立ち位置にあります。それでも独奏の文脈では、ソナタ形式とはという言葉とともにピアノソナタが真っ先に語られるように、ピアノは弦楽器や管楽器と並ぶ独立した独奏楽器として扱われるのが普通です。分類が割れるのは、比べる相手や場面が違うから、という面もあります。

一段深く:分類は「誰が弾くか」の問題として現れる

オーケストラの本番プログラムを見ていると、楽器学の分類論はほとんど出てきません。現場で先に決まるのは「今日のピアノは誰が弾くか」です。オーケストラの楽器配置はなぜあの並び?で触れているとおり、常設の弦楽器群にはあらかじめ人数分の椅子が用意されていますが、ピアノにはそうした定席がありません。

曲の中にピアノを要する一節があるとき、それを弾くのは鍵盤打楽器を持ち替えられる打楽器奏者であることが少なくなく、譜面上もピアノのパートが打楽器の譜面台の近くにまとめて置かれることがあります。学問の分類では弦鳴楽器でも、現場の運用では打楽器セクションの一員として扱われます。この2つは矛盾していません。

デザイン思考の言い方に置き換えると、分類の対立は「今あるカテゴリーのどちらか一方に押し込めなければならない」という前提そのものが窮屈なのだと思います。学問の分類は楽器の成り立ちを整理するための道具であり、現場の分類は本番を成立させるための道具です。目的の違う2つの物差しを同じ土俵で比べようとするから、答えが割れて見えるだけなのです。

よくある質問

Q. 結局、ピアノは弦楽器なの? 打楽器なの?

A. 学問的な楽器分類(ホルンボステル=ザックス分類)では弦鳴楽器、つまり弦楽器の仲間に入ります。一方で、発音の動作(ハンマーで弦を叩く)や、オーケストラでの実際の担当パートに注目すると、打楽器に近い扱いを受けることがあります。どちらも間違いではなく、見ている物差しが違うだけです。

Q. チェンバロやオルガンも同じように分類が割れるの?

A. チェンバロは弦を爪(プレクトラム)ではじいて鳴らす楽器で、こちらも弦鳴楽器に分類されますが、打つのではなく弾くため「打弦楽器」ではなく「撥弦楽器」と呼ばれます。オルガンは弦を持たず、パイプに空気を送って鳴らす気鳴楽器なので、そもそも弦楽器・打楽器どちらの議論にも入りません。同じ鍵盤楽器でも、発音のしくみが違えば分類上の居場所もまったく別になります。

まとめ

ピアノは打楽器か弦楽器か、という問いに一つの正解はありません。楽器学の体系では弦鳴楽器、発音の動作を見れば打弦楽器、オーケストラの現場では打楽器セクションの持ち替え楽器。見ている物差しが変わるたびに、同じ楽器の居場所が変わります。次にコンサートでピアノが入る曲を聴くときは、鍵盤の下で何が起きているか、そしてその奏者がどのパートの椅子から歩いてきたのか、少しだけ想像してみてください。

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この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/一般社団法人LFコンサート 代表理事/テューバ奏者。広島県三次市出身。九州大学で音響設計と音楽マネジメントを学び、デザイン思考を軸に持つ。演奏する側の実感と“音の仕組み”の両面から、「誰もが音楽にたどり着ける道筋」のリデザインに取り組む。

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